二朱銀

安政二朱銀：開港期の激動を映す銀貨

安政二朱銀は、江戸時代末期に発行された銀貨で、特に開港期の混乱を象徴する存在です。この銀貨は、秤量貨幣である丁銀や豆板銀とは異なり、額面が明記された計数貨幣として登場しました。その背景には、日米和親条約による開港と、それに伴う国際的な貨幣制度との摩擦がありました。

安政二朱銀の発行と目的

1859年、横浜港の開港を目前に、幕府は安政二朱銀を鋳造しました。その主な目的は、小判の海外流出を防ぐことでした。当時の日本では、金貨と銀貨の交換レートが国際基準と大きく異なっており、外国人が日本の金貨を大量に持ち出すことで、国内の経済が混乱する恐れがありました。そのため、幕府は貿易取引専用の銀貨を発行することで、この問題に対処しようとしました。

安政二朱銀は、「貿易二朱」とも呼ばれ、額面は二朱でした。しかし、その価値は一分銀の半分とされながらも、含有銀量は約4/3倍もあり、これは幕府が良質な銀貨を大量に発行することをためらった結果と言えます。このため、この銀貨は「バカ二朱」とも呼ばれました。安政二朱銀の表面には「二朱銀」と刻印されており、これは以前の南鐐二朱銀にあった「以南鐐八片換小判一兩」のような複雑な表記を避けたものです。

国際的な貨幣レートの圧力

安政二朱銀の発行には、国際的な貨幣レートをめぐる幕府と外国との交渉が深く関わっています。アメリカは、自国の金貨と銀貨を同質量で交換することを主張しましたが、幕府はこれに反論しました。幕府は、ドル銀貨は地金として評価し、一分銀を名目貨幣として位置づけました。しかし、アメリカ総領事ハリスは、一分銀が国際的に通用しないことを指摘し、同種同量交換を強く主張しました。最終的に幕府は、1ドル＝3分という交換レートを認めざるを得なくなりました。

安政二朱銀の短命と混乱

幕府は、安政二朱銀を発行することで、1ドル＝1分に誘導し、金銀比価を国際水準に近づけようとしました。しかし、この二朱銀は開港場のみでしか通用せず、国内では一分銀に両替する必要がありました。このため、この銀貨は貨幣としての機能を十分に果たすことができませんでした。さらに、1ドル銀貨を1/3の価値に貶めるという幕府の政策に、外国人大使は条約違反であると強く抗議しました。結果として、安政二朱銀はわずか22日間で通用停止となりました。

この混乱の中、外国人は1ドル銀貨を日本に持ち込み、一分銀に両替した後、小判に両替することで莫大な利益を得ることができました。この結果、国内から大量の小判が海外に流出し、国内の金貨不足が深刻化しました。この状況を打開するため、幕府は安政一分銀を発行しましたが、小判の流出を防ぐことはできませんでした。最終的に、幕府はメキシコ銀貨などに刻印を打って三分として通用させるという措置をとりましたが、これも短期間で中止されました。

安政二朱銀の教訓

安政二朱銀の失敗は、国際的な貨幣制度の重要性と、名目貨幣の限界を示しました。また、幕府の政策が、結果的に小判の流出を招き、国内経済を混乱させたことも明らかになりました。イギリス総領事オールコックは、著書『大君の都』の中で、日本の本位貨幣である小判が金貨4ドル分の金を含有し、一分銀には素材価値以上の価値が設定されていたことが、金貨流出につながったことを指摘しています。

地方貨幣と試鋳貨幣

安政二朱銀以外にも、地方貨幣として二朱の価値を持つ銀貨が存在しました。秋田一匁一分五厘銀判や筑前二朱銀などがその例です。また、二朱銀の試鋳貨幣も存在し、嘉永一朱銀発行の頃に試鋳されたと見られるものもあります。これらの貨幣は、当時の地方経済や貨幣制度を理解する上で重要な資料となります。

まとめ

安政二朱銀は、その短い流通期間にもかかわらず、幕末の激動期における貨幣制度の混乱を象徴する存在です。国際的な貨幣レートの圧力、国内経済の混乱、そして幕府の政策の失敗など、多くの要素が複雑に絡み合って、安政二朱銀の悲劇的な結末をもたらしました。この歴史的な出来事は、現代においても、経済政策の重要性と国際的な協調の必要性を教えてくれます。

関連項目
* 水野忠徳 - 安政二朱銀の発案者

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