水野忠徳

水野忠徳（みずの ただのり）

水野忠徳は、江戸時代末期、激動の幕末に活躍した旗本、幕臣です。文化7年（1810年）に生まれ、慶応4年（1868年）に59歳で亡くなりました。もともとは諏訪庄右衛門頼篤の子でしたが、文政5年（1822年）に水野忠長の養嗣子となり、水野家を継ぎました。初名は忠篤、号は癡雲（ちうん）と称し、官名としては筑後守、後に下総守となりました。水野忠敬は実子です。

幕府での活躍

当初は500石の旗本でしたが、天保15年（1844年）に老中阿部正弘にその才能を認められ、西丸目付に抜擢されます。その後、使番、御先手組火付盗賊改方加役などを経て、嘉永5年（1852年）には浦賀奉行に、嘉永6年（1853年）には長崎奉行に任命されました。

長崎奉行の任は、翌年に再来航が予定されていたペリーとの交渉を想定したものでしたが、ペリーが下田に来航したため、その役割を果たすことはありませんでした。しかし、その後、ロシアのプチャーチンが日露交渉のために長崎に来航した際には、幕府側全権である大[[目付]]格の筒井政憲と勘定奉行の川路聖謨を補佐し、交渉にあたりました。

日英和親条約締結

同時期にクリミア戦争が勃発し、ロシアと敵対することとなったイギリスの東インド艦隊司令ジェームズ・スターリングがプチャーチンを追って長崎に来航します。水野忠徳はスターリングも外交交渉のために来航したと判断し、幕府の許可を得て、目付の永井尚志と共に、嘉永7年（1854年）に日英和親条約を締結しました。この条約締結は、日本が欧米列強と締結した最初の条約の一つとして、重要な意義を持ちます。

海軍創設への貢献

水野忠徳は、オランダ商館長ヤン・ドンケル・クルティウスを通じ、オランダの海軍士官から海軍創設に関する意見書を提出させました。それらの意見書をまとめて幕府に提出し、幕府[[海軍]]設立の承認を得ることに成功しました。この決定に基づき、オランダにコルベット艦2隻が発注され、後の幕府[[海軍]]の基礎が築かれることとなりました。

外交と失脚、そして復帰

安政元年（1855年）には、勘定奉行兼勝手掛、安政4年（1857年）には田安家家老を歴任。安政5年（1858年）には外国奉行に転じ、日英修好通商条約、日仏修好通商条約の締結に全権委員として調印しました。また、金銀の価格差による金貨の流失を防ぐため安政二朱銀の発行を献策しましたが、諸外国の外交官の猛反対により短期間で通用停止となりました。

将軍継嗣問題では一橋派として一橋慶喜を支持しましたが、安政の大獄では処罰を免れました。安政6年（1859年）には神奈川奉行も兼任しますが、ロシア海軍士官殺害事件の責任を問われ、西の丸留守居に左遷されました。

その後、万延元年（1860年）の遣米使節には参加できませんでしたが、咸臨丸を米国へ派遣するという形で、幕府の外交活動に間接的に貢献しました。文久元年（1861年）には再び外国奉行に再任しましたが、文久遣欧使節には加わることができませんでした。しかし、同年12月には小笠原諸島に赴き、欧米系島民に対し日本領であることを確認させました。

公武合体と最期

文久2年（1862年）には公武合体に反対し、箱館奉行に左遷。文久3年（1863年）には、老中小笠原長行の京都での人質状態を打開するため、幕府陸軍を率いて大坂へ同行しますが、その強硬な主張は受け入れられず、謹慎を命じられます。

慶応4年（1868年）の鳥羽・伏見の戦い後、江戸城での評定では新政府軍との徹底抗戦を主張しましたが、容れられず隠居。その後、武蔵布田宿に移住し、間もなく病に倒れ、59歳で亡くなりました。憤死したとも伝えられています。墓は茨城県鉾田市の大儀寺にあり、息子の忠敬との写真も残っています。

人物像

水野忠徳は、貨幣に関する理論家としても知られ、幕末の金貨流出を防ごうとした安政二朱銀の発行に尽力しました。また、外交交渉の際には、屏風の陰に隠れて閣老に指示を出していたことから「屏風水野」と呼ばれました。隠居中は知行地の常陸国鹿島郡阿玉村で農地開墾に励んだとされています。

水野忠徳は、幕末という激動の時代において、外交、財政、軍事など多岐にわたる分野で活躍し、日本の近代化に貢献した人物の一人と言えるでしょう。

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