二重結果の原理

二重結果の原理とは

二重結果の原理（または二重結果の理論）とは、一つの行為が二つの結果、すなわち善い結果と悪い結果の両方をもたらす場合に、その行為が道徳的に許容されるかどうかを判断するための倫理的な枠組みです。この原理は、特に道徳神学やキリスト教哲学において、行為の許容性を評価するために用いられます。

二重結果の原理の歴史

この原理の最も初期の例として知られているのは、トマス・アクィナスが『神学大全』の中で言及した、正当防衛における他人を殺害する行為です。アクィナスは、自己防衛の意図を持つ行為が、結果として他者の死をもたらす場合でも、一定の条件を満たせば道徳的に許容されるとしました。この考え方が、二重結果の原理の基礎となっています。

二重結果の原理の4つの要件

フランシス・ジェレミア・コネルによると、二重結果の原理を適用するためには、以下の4つの要件を満たす必要があります。

1. 行為自体の善性: 行為自体が倫理的に善いものであるか、少なくとも善悪のどちらでもない無関なものでなければなりません。つまり、行為そのものが最初から悪いものであってはなりません。
2. 意図の純粋性: 行為者は悪い結果を積極的に意図してはならず、単にその結果を許容するだけでなければなりません。もし悪い結果なしに善い結果を達成できるのであれば、そうすべきです。悪い結果は意図せずに生じるものでなければなりません。
3. 因果関係: 善い結果は、悪い結果によってではなく、行為によって直接的に生じなければなりません。もし善い結果が悪い結果によって生じる場合、それは悪い手段を使って善を達成しようとしていることになり、許容されません。
4. 比例性: 善い結果は、悪い結果を許容することの埋め合わせをするのに十分なほど望ましいものでなければなりません。この判断は、個々の事例の重要性に応じて慎重に行われる必要があり、社会全体に与える影響や結果の確実性などを考慮する必要があります。

二重結果の原理の実例

以下に、二重結果の原理が適用される可能性のある具体的な例を挙げます。

妊娠中の女性に対する子宮切除: 女性が子宮癌で死亡する危険性がある場合、子宮を摘出する手術は、結果として胎児の死亡を招きます。しかし、この行為は、女性の命を救うという善い結果を直接的に意図したものであり、胎児の死亡は意図しない結果として許容される場合があります。ただし、この考え方はキリスト教的な観点に基づいているため、現代社会における中絶の議論に適用することは人権侵害にあたります。
戦争における市街地爆撃: 戦争中に敵の軍事工場を爆撃する際、近くに住む一般市民が巻き添えになり死亡する可能性があります。しかし、爆撃は軍事目標を攻撃する善い目的を持って行われ、一般市民の死亡は意図しない結果として許容される場合があります。ただし、この場合も、市民の殺害を意図的に行う場合は、二重結果の原理から外れることになります。
医療資源の配分: 医師が、新種の病気で重症患者が多数発生した際に、救命可能性の高い患者を優先的に治療し、救命困難な患者の治療を後回しにするという判断は、結果として後回しにされた患者の死亡につながる可能性があります。しかし、これはより多くの命を救うという善い結果を目指したものであり、死亡は意図しない結果として許容される場合があります。

二重結果の原理の注意点

二重結果の原理は、行為の道徳性を判断するための便利なツールとなりえますが、その適用には細心の注意が必要です。特に、意図と結果の区別、因果関係、そして比例性の判断は、非常に複雑な場合があります。また、二重結果の原理は、キリスト教倫理の伝統に基づいているため、現代の多様な倫理観や人権意識と照らし合わせて慎重に検討する必要があります。

関連する概念

トロッコ問題: 倫理的なジレンマを考える思考実験。
緊急避難: やむを得ない状況で他人に損害を与える行為。
功利主義: 最大多数の最大幸福を追求する倫理思想。
帰結主義: 行為の結果によって道徳性を判断する倫理思想。
医療倫理: 医療における倫理的な問題に関する原則。
行為の哲学: 行為の性質や意図を研究する哲学の分野。
行為論 (刑法学): 刑法における行為の意味や責任を研究する分野。

二重結果の原理は、行為の道徳性を判断する際に、非常に重要な視点を提供します。しかし、その適用は常に状況に依存し、倫理的な判断を伴うことを理解しておく必要があります。

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