五投下

五投下（ごとうか）について

五投下とは、モンゴル帝国およびその後の大元ウルスにおいて重要な役割を担った五つの部族集団の名称です。これらはジャライル部、コンギラト部、イキレス部、マングト部、ウルウト部の五つから成り、時には「五諸侯」とも称されます。特に左翼部隊に属していたため、研究者の間では「左手の五投下」と呼ばれることもあります。

この集団の起源は、1213年に始まる第1次金朝侵攻にさかのぼります。この侵攻中、ジャライル部の国王ムカリが指導する軍団が五投下の原型を形成しました。当時のモンゴル軍は、遊牧国家の伝統に従い、右翼・左翼・中央の三軍体制で編成されていましたが、左翼部隊は主にムカリとチンギス・カンの弟ジョチ・カサルによって指揮されました。

金朝との和議の結果、チンギス・カンは中央アジアへの遠征を Plans しましたが、多くの兵士を抱える金朝を放置することは危険でした。そこで、ムカリは華北に駐屯し、金朝の逆襲を防ぐよう命じられました。これにより、五投下はチンギス・カンの代理としての役割を果たすことになり、観察した地形（華北の地理地形）について熟知し、独立した軍団としての勢力を強化しました。

オゴデイの時代になると、モンゴル軍は兵士の募集に現地民を取り入れていくつかの軍団が形成され、五投下が活躍する場面が減少しました。ただし、第4代皇帝モンケの治世において、五投下は南末攻撃の主力として再び重要な役割を果たしました。この時、クビライが可令官となり、五投下のジャライル部とコンギラト部はクビライの信任を受け、彼の義兄弟でもあるため、彼にとって非常に頼もしい軍団となりました。

1259年、モンケが急死すると、クビライは弟アリク・ブケとの帝位を巡る戦争に突入しました。その際、五投下はクビライと行動を共にすることを早々に決定しました。激しい戦闘が繰り広げられたモンゴル高原においても、五投下は主力を務め、特にシムルトゥ・ノールの戦いでは全ての五投下当主が参戦していたことが確認されています。

クビライが帝位を確保した後、彼は新たな国の樹立に着手しました。この時、五投下は功臣として手厚くもてなされました。彼の指導のもと、首都として選ばれた「幽燕の地（現在の北京）」は、五投下の遊牧地域としての重要性を反映し、彼らへの恩恵を与える意味があったと考えられています。そういった背景があるため、五投下は国造りでも重要な役割を果たしました。

元代の後半には、キプチャク・アスト軍閥が台頭し、五投下も単独では特別な扱いを受けられなくなりました。しかし、遼河地域においては未だ強力な影響力を持っていました。大元ウルスが北遷する際には、ムカリの末裔であるナガチュが20万の軍を指揮していましたが、最終的には食糧不足から明朝に降伏しています。その後の混乱で五投下は姿を消しましたが、シェルア・ハーンによって再編成された「ダヤン・ハーンの六万人隊」においても、五投下に類似した部族構成が見られました。

このように、五投下はモンゴル帝国の歴史において重要な役割を果たし、数世代にわたって影響を及ぼしました。彼らの存在は、当時の政治的な力関係や軍事的な戦略の理解に不可欠な要素であるといえるでしょう。

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