ダヤン・ハーン

ダヤン・ハーン：モンゴル再統一の英雄

ダヤン・ハーン（1473年 - 1516年または1474年 - 1517年）は、モンゴルの第34代ハーンであり、分裂状態にあったモンゴル部族を再統一し、ハーンの権威を回復させたことで知られています。本名はバトゥ・モンケといい、明朝の史料では大元大可汗や小王子、達延汗と記されています。

生い立ちと即位までの道のり

チンギス・カンの末裔であるボルジギン氏に生まれたバトゥ・モンケですが、当時のモンゴル高原は政治的混乱の中にあり、彼の家系に関する記録も錯綜していました。ドルベン・オイラトのエセン・タイシによる支配や、チンギス統原理の崩壊など、激動の時代を生き抜くこととなります。

成長したバトゥ・モンケは、ウルウト部のオロチュ少師と同盟を結び、勢力を拡大。マンドゥールン・ハーンの死後、チンギス・カンの血を引くほぼ唯一の男子として、1479年にハーンに即位します。この時、「ダヤン・ウルス（大元ウルス）を支配するように」との願いを込めてダヤン・ハーンと称しました。「ダヤン」はモンゴル語で「起源」または「すべて」を意味するとも言われています。

ダヤン・ハーンの統一事業

ダヤン・ハーンは、即位後、数々の敵対勢力を打ち破り、モンゴルの再統一を成し遂げました。その主な業績は以下の4つに分けられます。

1. ヨンシエブ部のイスマイル討伐：ダヤン・ハーン即位の最大の功労者であったイスマイルを討伐し、その専横を阻止しました。
2. オイラト遠征：ドルベン・オイラトを支配していたケシク・オロクと同盟を結んだイスマイルを攻撃し、オイラトの勢力を弱体化させました。
3. 右翼3トゥメン平定：右翼3トゥメン（トゥメト、オルドス、ヨンシエブ）の反乱を鎮圧し、モンゴルを再び統一しました。ダラン・テリグンの戦いでの勝利が決定的なものとなりました。
4. ウリヤンハンの解体：ウリヤンハンは実際にはダヤン・ハーンの孫ボディ・アラク・ハーンの業績です。

モンゴル再統一とその後の影響

ダヤン・ハーンは、征服した部族に自らの息子たちを分封し、モンゴルの有力部族が彼の血を引く皇族によって治められるように定めました。これにより、ハーンを傀儡とするような非チンギス裔貴族の影響力を排除し、ダヤン・ハーンの子孫によるモンゴル支配を確立しました。

ダヤン・ハーンの11人の息子のうち9人が子孫を残し、それぞれが婿入りした部族の領主として君臨し、20世紀に至るまでモンゴル貴族として繁栄しました。現在モンゴルに存在するチンギス・カンの後裔は、全てダヤン・ハーンの子孫です。

ダヤン・ハーンの6トゥメン

ダヤン・ハーンは、再統一したモンゴル部族を6つのトゥメン（万人隊）に再編成しました。この6トゥメンは、「ダヤン・ハーンの6トゥメン」として特筆され、モンゴル年代記にも記録されています。6トゥメンは左翼（チャハル、ハルハ、ウリヤンハン）と右翼（オルドス、トゥメト、ヨンシエブ）に分類され、それぞれ「左翼3トゥメン」「右翼3トゥメン」と呼ばれました。

ダヤン・ハーンの年代論争

ダヤン・ハーンに関する年代は史料によって異なり、長らくモンゴル史学者たちの間で論争の的となっていました。日本では、和田清、萩原淳平、佐藤長、岡田英弘らが異なる説を主張し、「ダヤン・ハーン論争」と呼ばれる議論が展開されました。近年、『アルタン・[[ハーン]]伝』という新たな史料が発見され、中国のモンゴル史学者らによって新たな学説が唱えられています。

現在では、1473年/1474年出生、1479年/1480年に7歳で即位、1516年/1517年に44歳で死去という説が広く受け入れられています。

ダヤン・ハーンは、分裂状態にあったモンゴルを再統一し、その後のモンゴル社会に大きな影響を与えた英雄として、今もなお語り継がれています。彼の功績は、チンギス・カン、クビライ・カアンと並び、モンゴルの歴史において重要な位置を占めています。

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