井上直幸

井上直幸は、1940年1月11日に福岡県福岡市で生まれ、2003年4月22日に63歳で生涯を閉じた、日本のピアニストです。幼少期より音楽に親しみ、大島正泰に師事した後、桐朋学園大学短期大学部音楽学科を卒業しました。更なる研鑽を積むため、1964年にドイツへ留学。シュトゥットガルト音楽大学でA.エアフルト、H.ロイターに師事した後、フライブルク音楽大学へ移り、エディット・ピヒト＝アクセンフェルトのもとで学びました。1969年には同大学を首席で卒業し、ケルンでのデビューリサイタルを皮切りに、ミュンヘン国際音楽コンクールに入賞するなど、国際的な舞台で頭角を現しました。

1970年にはフライブルク音楽大学講師に就任し、ヨーロッパ各地で演奏活動を展開。数々の放送にも出演し、その名を知られるようになりました。1974年には、シェーンベルク生誕100年を記念したピアノ曲全曲演奏会を東京で開催し、高い評価を得ました。この演奏会を機に、日本での活動も活発化させ、1976年に帰国。NHKの番組『ピアノのおけいこ』への出演や、NHK交響楽団をはじめとする主要オーケストラとの共演、全国各地でのリサイタルなど、精力的な活動を展開しました。また、1976年からは武庫川女子大学教授および桐朋学園大学講師として、後進の指導にもあたりました。

井上の演奏は、「音楽に対する深い洞察力」「自然で豊かな表現力」「色彩感に富んだ響き」と評され、常に高い評価を得ていました。1983年にはヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団と共演、1988年にはソビエト連邦への演奏旅行も行い、その演奏は絶賛を博しました。また、1998年には著書『ピアノ奏法―音楽を表現する喜び』を出版し、各方面から好評を博しました。2000年にはビデオ版も発売され、現在もDVDで入手可能です。

桐朋学園在学中からドイツ留学までの間、慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団の練習ピアニストを務めていたというエピソードも残っています。団員たちからは「ポンちゃん」の愛称で親しまれ、寝食を共にする仲でした。井上の才能は当時から木下保や畑中良輔に認められ、多くのステージで共演しました。1987年には、久しぶりに合唱団のメンバーと再会し、互いに抱き合って喜ぶ姿が見られたそうです。

井上は、ハイドンピアノ作品集の編集も手掛けており、1995年には春秋社から出版されました。また、自身のピアノ奏法に関する著書やDVDも出版しており、その内容は現在でも多くの音楽家に参考にされています。

井上の演奏は、現在でもCDやMP3で入手することが可能です。ソロ演奏だけでなく、アンサンブルも得意としており、多くの録音を残しています。没後17年経った現在でも、彼の音楽は多くの人に愛され続けています。

主な著書として、『ハイドンピアノ作品集 1, 2』（春秋社、1995年）、『ピアノ奏法―音楽を表現する喜び』（春秋社、1998年）、『井上直幸ピアノ奏法 1, 2』（春秋社、2000年）などがあります。また、多くのCDやDVDもリリースされており、その演奏を今も楽しむことができます。

井上直幸は、その卓越した演奏技術と音楽に対する深い理解、そして教育者としての熱意によって、日本の音楽界に大きな足跡を残しました。

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