慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団

慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団は、1901年（明治34年）に創設された慶應義塾ワグネル・ソサィエティーの男声合唱部門として誕生しました。120年以上の歴史を持ち、学生によって運営される日本でも有数の男声合唱団です。通称「ワグネル」として知られ、そのハーモニーは「ワグネルトーン」と称されるほど、独特な響きを持っています。

創立と初期の活動

創立当初はオーケストラ部門と合同で活動していましたが、次第にそれぞれの独立性を高めていきました。創立時のメンバーは、オーケストラと合唱の両方に参加することが多く、音楽を愛する学生たちが集まっていました。指導者には東京音楽学校（現東京藝術大学）出身者が多く、日本の洋楽黎明期を支えた音楽家たちとのつながりが深いことが特徴です。

指導者たちの系譜

初代指揮者の大塚淳から始まり、木下保、山口雅章、梅原文雄、畑中良輔、佐藤正浩と、多くの優れた指導者たちがワグネルの歴史を築いてきました。特に木下保は、ドイツ留学で得た知識と経験を基に、ドイツ・ロマン派音楽や日本の歌曲、現代音楽など、幅広いレパートリーを導入しました。畑中良輔は、男声合唱の可能性を広げるため、他のジャンルの音楽を積極的に編曲し、日本の男声合唱のスタンダードとなるレパートリーを確立しました。また、現常任指揮者の佐藤正浩は、フランス音楽や現代邦人作品を積極的に取り入れ、更なる音楽性の向上に努めています。

演奏活動

ワグネルは、年3回の定期演奏会を中心に、海外演奏旅行や国内各地での依頼演奏など、活発な演奏活動を行っています。特にオペラやオーケストラとの共演が多く、その実力は高く評価されています。1983年にはNHK大河ドラマ「徳川家康」のテーマ音楽を担当し、全国にその歌声を響かせました。海外公演も積極的に行っており、アメリカ、ヨーロッパ、中国、オーストラリアなど、世界各地で演奏会を開催しています。

レパートリー

ワグネルのレパートリーは、ルネサンス音楽から現代音楽まで、非常に幅広く、中でもドイツ・オーストリア音楽に強いこだわりを持っています。特に発音においては、舞台ドイツ語（Bühnendeutsch）の伝統を守り、その高い水準は専門家からも評価されています。ワーグナーの作品も重要なレパートリーの一つであり、「ワグネル在籍期間中に、必ず一回はヴァーグナーの作品の何かを歌って卒業」という伝統があります。また、日本の作曲家への委嘱も行っており、多田武彦、清水脩、間宮芳生、加藤昌則、新実徳英など、多くの作曲家がワグネルのために作品を書いています。

コンクールについて

ワグネルは、コンクールへの出場は少なく、音楽の本質を追求することに重きを置いています。指揮者の畑中良輔は、「音楽は数で決まるものではない」という考えのもと、コンクールでの競争よりも、音楽を通じた人間形成を重視していました。

人材育成

ワグネルは、音楽家だけでなく、各界で活躍する多くの人材を輩出しています。音楽関係者では、ダークダックスのような著名な歌手や、多くのソリスト、指揮者、ピアニストなどがいます。また、経済界や教育界、メディアなど、幅広い分野で活躍する卒業生がいます。

ワグネルの精神

ワグネルは、単なる音楽団体ではなく、学生たちの成長の場でもあります。音楽を通して、協調性や責任感、そして豊かな人間性を育むことを目指しています。ワグネルの歴史は、学生たちの情熱と、指導者たちの熱意によって紡がれてきました。その精神は、これからも脈々と受け継がれていくでしょう。

主な関連人物

ワグネルの活動を支えた多くの音楽家や関係者がいます。ピアニストの三浦洋一、井上直幸、指揮者の皆川達夫、編曲家の福永陽一郎など、日本の音楽界を代表する人々がワグネルと深く関わっています。

海外での演奏

ワグネルは、1969年の第2回世界大学合唱祭への招聘を皮切りに、欧米やアジアなど世界各地で演奏会を開催してきました。特にドイツ合唱祭C.H.O.I.R.には何度も参加しており、国際的な交流も盛んに行っています。

オペラ、オーケストラ演奏会等への出演

ワグネルは、オペラやオーケストラとの共演も数多く、二期会や読売日本交響楽団など、日本の主要な音楽団体と共演しています。特にワーグナー作品の演奏においては、その高い実力が発揮されています。

放送出演

ワグネルは、数多くのテレビやラジオ番組にも出演してきました。NHKの番組には特に多く出演しており、その歌声は全国の視聴者に親しまれています。

ディスコグラフィー

ワグネルは、数多くのCDやレコードをリリースしており、その演奏は今も多くの人に聴かれています。特に「合唱名曲コレクション」シリーズや「日本合唱曲全集」は、ワグネルの代表的な録音として知られています。

まとめ

慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団は、120年以上の歴史を持つ、日本を代表する男声合唱団です。その音楽への情熱と高い技術、そして学生たちの熱意によって、日本の合唱音楽界を牽引してきました。これからもワグネルは、その伝統を守りつつ、新しい音楽の可能性を追求していくでしょう。

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