井田城 (武蔵国)

井田城（いだじょう）

井田城は、神奈川県川崎市高津区蟹ケ谷・中原区井田（井田山）付近にあったとされる日本の城（山城）です。現在の神奈川県立中原養護学校周辺がその跡地であると伝えられています。城の近傍には神庭緑地があり、そこには蟹ヶ谷古墳群が存在しますが、これらの古墳が城の土塁として転用されたという事実は確認されていません。

概要

井田城は、矢上川右岸の高台に位置していました。東急東横線・東急目黒線の元住吉駅から西に約1.5キロメートルの場所にあり、現在の神奈川県立中原養護学校がある場所が、かつて城跡であったと考えられています。

城主は中田氏であったと伝えられています。中田氏の一族である「中田加賀守」は後北条氏に仕え、小机衆として井田城の他に、矢上城（現在の慶應義塾大学日吉キャンパス内）や川島（保土ケ谷区）の地を領有していました。しかし、1590年（天正18年）の小田原城落城時に憤死したと伝えられています。

『日本城郭大系』などの文献には、矢上川の崖線に沿って土塁や櫓台が残っていたと記述されています。また、中原養護学校の北側に位置する「神庭緑地」には、土塁や櫓台のような高まりが見られます。しかし、これらの高まりは、古墳時代後期（6世紀～7世紀）に築造された蟹ヶ谷古墳群であり、特に中央の古墳は前方後円墳であるため、細長く土塁のように見えているものです。

発掘調査

川崎市や専修大学、日本大学によって、2012年度から2016年度にかけて発掘調査が行われました。この調査では、古墳の周溝と見られる溝状の遺構や埴輪片などが発見されました。しかし、古墳を土塁に転用した痕跡や、城郭の存在を示すような遺構は確認されませんでした。

また、中原養護学校の建設時にも発掘調査が実施されましたが、縄文時代から古墳時代にかけての集落跡（神庭遺跡）は発見されたものの、城郭関連の遺構は確認されていません。これらの調査結果から、井田城の具体的な遺構は、現在のところ考古学的には特定できていない状況です。

まとめ

井田城は、文献にはその存在が記されているものの、発掘調査では城郭としての確たる証拠が見つかっていない、謎に包まれた城です。しかし、その歴史は地域の語り草として今も受け継がれています。今後の調査によって、新たな発見があるかもしれません。

参考文献

大類伸 監修 1967 『日本城郭全集』第4集 人物往来社
児玉幸多・坪井清足 監修 1980 『日本城郭大系第6巻 千葉・神奈川』新人物往来社
土生田純之「川崎市蟹ヶ谷古墳群の発掘調査」『人文科学年報』第46巻、専修大学人文科学研究所、2016年3月、1-20頁
高久健二「川崎市蟹ヶ谷古墳群の発掘調査と神庭遺跡」『人文科学年報』第47巻、専修大学人文科学研究所、2017年3月、1-20頁
* 平井誠二 2017 「港北のお城と館 -その1、中田加賀守館-（シリーズ わがまち港北 第226回）」『楽・遊・学』横浜市港北区区民活動支援センター

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