井田正孝

井田正孝：軍人、そして実業家として生きた激動の生涯

井田正孝（1912年10月5日 - 2004年2月6日）は、日本の陸軍軍人、実業家です。最終階級は陸軍中佐。戦後、旧姓の岩田に復しました。その生涯は、軍人として、また実業家として、激動の昭和の時代を色濃く反映しています。

軍人としての経歴

1912年、井田は岐阜県で生まれました。父は陸軍の砲兵大佐。大垣中学校を経て陸軍士官学校に進み、1933年に卒業。皇族・公族を除けば、同期335名中6番という優秀な成績でした。卒業後、砲兵少尉に任官し、野戦砲兵第1聯隊に配属されます。この聯隊には、後に宮城事件の首謀者となる畑中健二も所属していました。

1935年頃から、井田は東大教授の平泉澄に師事し、竹下正彦、畑中健二と親交を深めます。1936年には男爵の井田磐楠の養嗣子となりました。陸軍砲工学校高等科で学び、1939年のノモンハン事件には、野戦重砲兵第3旅団の観測将校として参加しています。1941年には陸軍大学校を優等で卒業。その後は、第33師団参謀、軍務局課員などを歴任しました。

1944年、井田は大本営の松代移転計画を発案し、陸軍次官に提案。この計画は、戦局の悪化を見越したものでしたが、実現には至りませんでした。この時の様子は、NHKの番組「歴史への招待」で語られています。

終戦と宮城事件

1945年6月、井田は陸軍省軍務局軍務課員となります。同年、最後の中佐進級者のひとりに選ばれました。しかし、終戦時、ポツダム宣言受諾に反対し、宮城事件の首謀者の一人として、近衛師団長殺害現場に居合わせます。その後、陸相官邸で阿南惟幾陸軍大臣の自刃に立ち会うことになりました。クーデターは失敗に終わり、井田は自決を決意しますが、見張りの将校に止められ断念。重謹慎30日の処分を受け、予備役に編入されました。敗戦により軍事組織が解体されたため、軍事裁判にかけられることはありませんでした。

戦後の人生

戦後は、在日米軍司令部戦史課に勤務した後、電通に入社。総務部長、関連会社である電通映画社の常務を歴任しました。1955年に離婚し、岩田姓に復姓。戦後も一貫して、本土決戦を主張していました。

人となり

井田は、陸軍士官学校を優秀な成績で卒業したエリート軍人であり、その思想は国粋主義的でした。宮城事件に関与したことからも、その強い信念がうかがえます。しかし、クーデター失敗後は、その責任を問われることなく、実業家として成功を収めました。その複雑な人生は、日本の近現代史を象徴していると言えるでしょう。

余談

後藤田正晴は、井田が台湾軍司令部に配属されていた際、部隊を頻繁に移動させていたことが、米軍の航空写真分析によって台湾への大規模な軍隊展開を誤認させ、結果的に台湾上陸を阻止した可能性があると述べています。

家族

父：岩田富士太郎（砲兵大佐、陸士9期）
義父：井田磐楠（男爵、砲兵少佐、陸士13期）
弟：岩田道孝（歩兵大尉、陸士48期）戦死

関連項目

竹下正彦
* 宮城事件

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