交響曲第1番 (カバレフスキー)

ドミトリー・カバレフスキー：交響曲第1番 嬰ハ短調 作品18

ドミトリー・カバレフスキー（Dmitry Kabalevsky, 1904-1987）が作曲した交響曲第1番 嬰ハ短調 作品18は、彼にとってキャリア初期にあたる作品であり、交響曲としては初めて手掛けた一曲です。この作品は1932年に完成し、同年11月9日にモスクワの聴衆の前で初演されました。作曲の背景には、1917年の十月革命から15年という大きな節目があり、その記念碑的な作品として委嘱されたものとされています。楽譜が出版されたのは、初演から二年後の1934年のことです。

当初、この交響曲は全く異なる形で構想されていました。詩人ヴィクトル・グセフ（Viktor Gusev）による詩をテクストとし、帝政ロシア時代の暗い時代から新たなソビエト社会への移行期という、歴史的な変革のドラマを描写する大規模なカンタータ（声楽と管弦楽のための作品）として計画されていたのです。しかし、作曲が進むにつれて構想は変更され、最終的には声楽パートを含まない純粋な管弦楽作品として完成されました。その形式も、一般的な交響曲の4楽章構成ではなく、緩やかな楽章と急速な楽章の二つからなる、より簡潔な構成に落ち着きました。

音楽的には、当時のカバレフスキーが師事していた作曲家ニコライ・ミャスコフスキー（Nikolai Myaskovsky）からの強い影響が明確に見て取れる一方で、スラヴ的な情緒や旋律線など、ロシア音楽の豊かな伝統に根ざした表現も随所に現れています。若き作曲家が自己のスタイルを確立していく過程において、師の書法を吸収しつつ、自身の音楽的語法を模索している様子がうかがえる作品と言えるでしょう。

この交響曲は、比較的大きな編成の管弦楽のために書かれています。その楽器編成は以下の通りです。

フルート3名（うち1名はピッコロと持ち替え）、オーボエ2名、コーラングレ、クラリネット2名、バスクラリネット、ファゴット2名、コントラファゴットといった木管楽器群に、ホルン4名、トランペット3名、トロンボーン3名、チューバからなる金管楽器群、そして多様な打楽器、さらに弦楽五部という構成になっています。

演奏時間は約20分程度で、二つの楽章は対照的な性格を持っています。

第1楽章：Andante molto sostenuto

最初の楽章は、Andante molto sostenuto（非常に荘重に、歩くような速さで）という速度記号が示すように、厳粛で重々しい雰囲気で幕を開け、ソナタ形式によって展開されます。冒頭から提示される主題には、作品が当初描こうとしていた歴史的な重みや、抑圧からの苦悩といった感情が込められているかのようです。

第2楽章：Allegro molto agitato

続く第2楽章は、Allegro molto agitato（非常に速く、激しく）と指示されており、一転して運動性に満ちた、衝動的な音楽が展開されます。形式としては自由なロンド形式で書かれています。この楽章には、当初カンタータとして構想されていた際に意図された、「圧政からの解放」や「新たな社会への躍動」といったテーマが反映されていると考えられています。特に終結部では、当時の社会で広く歌われていたような、ある大衆的な歌の旋律が引用されていることが、いくつかの研究で指摘されています。

ロシアの著名な音楽評論家レフ・ダニレヴィチ（Лев данилевич）は、この交響曲の劇的な構造について、「暗闇から光明へ、そして抑圧のイメージから解放のイメージへと向かう道のりを描いている」と高く評価しました。これは、作品が元々持っていた歴史的・政治的な背景と、最終的に完成された音楽の構造が見事に一致していることを示唆しています。

カバレフスキーの交響曲第1番は、彼の交響曲作家としての第一歩を記した作品であり、ソビエト時代の初期において、社会的なテーマを音楽に昇華しようとした試みとしても興味深い一曲と言えるでしょう。

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