交響曲第2番 (マーラー)

交響曲第2番 ハ短調「復活」

グスタフ・マーラーが作曲した交響曲第2番ハ短調は、「復活」という通称で知られていますが、これは第5楽章で歌われる賛歌に由来するもので、マーラー自身が正式にこの題名を付けたわけではありません。1888年から1894年にかけて作曲され、大編成の管弦楽に加え、声楽を導入した壮大な作品です。

作曲の経緯

ブダペスト時代

1888年、マーラーは交響曲第1番の原型となる「交響詩」を完成させ、その後ブダペストのハンガリー王立歌劇場の音楽監督に就任しました。交響曲第2番の最初の楽章は、この時期に構想されました。当初は交響曲の第1楽章として書かれましたが、後に「葬礼」という標題が付けられ、単独の交響詩として発表されることも検討されました。しかし、この試みは失敗に終わり、マーラーは交響曲としての完成を目指すことになります。

「葬礼」の試演

1891年、マーラーはハンブルク市立劇場の指揮者に就任しました。彼は、この地で完成していた第1楽章を出版社に送付し、単一楽章の交響詩としての出版を打診しますが、拒否されてしまいます。また、ピアニストのハンス・フォン・ビューローに「葬礼」を聴かせますが、酷評されてしまいます。これらの挫折を経験したマーラーは、交響曲としての完成へと舵を切ることになります。

交響曲の完成

1893年、マーラーは交響曲第2番の第2楽章から第4楽章を作曲しました。この時、歌曲集『子供の不思議な角笛』の楽曲が、第3楽章と第4楽章の素材として用いられています。1894年、ビューローの葬儀で聴いた「復活」の合唱に感銘を受け、最終楽章の歌詞として採用しました。この時、マーラーは「稲妻のように」曲の全体像が明確になったと語っています。こうして、交響曲第2番は1894年12月に完成に至りました。

初演

1895年3月、声楽が入らない最初の3楽章が初演されました。全曲初演は同年12月、マーラー自身の指揮によって行われ、大成功を収めました。

楽譜

版の混乱

交響曲第2番の楽譜には、複数の版が存在します。現在、一般的に用いられているのは、1970年に出版された全集版ですが、この版には「校訂ではなく改訂である」という批判もあり、演奏時には複数の版を折衷して用いられることが少なくありません。

キャプラン版

アメリカの実業家ギルバート・キャプランが、マーラーの自筆譜を基に校訂した「キャプラン版」も存在します。この版は、全集版の行き過ぎた改訂を修正し、より原典に近い形を追求したものです。キャプラン自身も、この版を用いて交響曲第2番を指揮・録音しています。

楽器編成

フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットなどの木管楽器、ホルン、トランペット、トロンボーン、チューバなどの金管楽器、ティンパニ、シンバル、大太鼓などの打楽器、ハープ、オルガン、弦楽器群、ソプラノ独唱、アルト独唱、混声合唱という大規模な編成です。

楽曲構成

スケルツォ楽章を中心に、5つの楽章で構成されています。演奏時間は通常80分程度ですが、演奏者によって大きく変動します。

マーラーによる解題

マーラーは、各楽章に以下のような標題的な説明を加えています。

第1楽章：英雄の葬礼と、人生の意味への問い。
第2楽章：過去の回想。
第3楽章：人生の喧騒。
第4楽章：単純な信仰の歌。
第5楽章：終末と復活の予感、そして神の栄光。

各楽章の詳細

第1楽章: ソナタ形式で、葬送行進曲風のテーマが特徴的です。激しい感情表現と、静かな内省的な部分が交互に現れます。
第2楽章: 穏やかな舞曲風の楽章で、変イ長調で書かれています。弦楽器の美しい旋律が印象的です。
第3楽章: スケルツォで、軽快なリズムとユーモラスな旋律が特徴です。歌曲「魚に説教するパドヴァの聖アントニウス」と関連があります。
第4楽章: アルト独唱による歌曲「原光」で、素朴な美しさが際立ちます。この楽章は、終楽章への導入としての役割も担っています。
第5楽章: 長大な終楽章で、拡大されたソナタ形式で書かれています。管弦楽と合唱、独唱が一体となり、壮大なクライマックスを迎えます。

標題について

交響曲第2番は、その長い作曲期間において、様々な変遷をたどりました。第1楽章は、当初は「交響曲ハ短調」の第1楽章として構想されましたが、その後「葬礼」という標題を与えられ、単独の交響詩としての発表も検討されました。最終的に、マーラーは全曲を交響曲として完成させることになり、最終楽章に「復活」の合唱を導入しました。しかし、マーラー自身がこの交響曲に「復活」という標題を与えたわけではありません。

『葬礼』について

マーラーが第1楽章に「葬礼」という標題を付けた理由については、諸説あります。交響曲第1番の英雄の葬礼であるという説や、自らの死への意識を反映したという説、あるいはポーランドの詩人アダム・ミツキェヴィチの作品に影響を受けたという説などがあります。

歌詞

第4楽章と第5楽章では、マーラーが選んだ歌詞が用いられています。

第4楽章：『子供の不思議な角笛』の「原光」
第5楽章：フリードリヒ・クロプシュトックの「復活」賛歌（マーラー加筆）

交響曲第2番は、マーラーの音楽哲学が凝縮された傑作であり、その壮大なスケールと、深く内省的な表現は、聴く者に忘れがたい感動を与えます。

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