交響曲第3番 (グレツキ)

グレツキ：交響曲第3番『悲歌の交響曲』作品36

ヘンリク・ミコワイ・グレツキが作曲した交響曲第3番『悲歌の交響曲』（Symfonia pieśni żałosnych）作品36は、彼の最もよく知られた作品の一つであり、同時に20世紀後半において世界的に大きな成功を収めた交響曲としても特筆されます。

作曲背景

戦後ポーランドにおける音楽界は、共産主義政権の下で必ずしも自由な環境にはありませんでした。現代芸術は当局からしばしば「形式主義」として批判の対象となりましたが、1956年に国際現代音楽祭「ワルシャワの秋」が開始されたことで、ポーランドの作曲家たちは以前には考えられなかった創作の自由を享受できるようになります。

グレツキもこの時期に前衛的な作曲家として頭角を現しました。初期には実験的な不協和音やセリエル音楽を取り入れた作品で知られ、1960年のワルシャワの秋で好評を博した「Scontri」や、1961年のパリ青年ビエンナーレで第1位を獲得した交響曲第1番のような現代的作品によって、国際的な音楽シーンに登場します。1960年代を通して、グレツキはピエール・ブーレーズやカールハインツ・シュトックハウゼンといった、当時の主要な実験音楽やセリエル音楽の作曲家たちとの交流を深めていきました。

しかし、1970年代に入るとグレツキの作風は変化を見せ始めます。初期の作品に見られたセリエル音楽や極端な不協和音といった要素から徐々に距離を取り、交響曲第3番では、その少し前に作曲された合唱曲「euntes ibant et flebant」（作品32、1972年）や「Amen」（作品35、1975年）と同様に、以前用いていた多くの技法を完全に放棄しました。この交響曲における変奏の欠如と繰り返しへの依存は、後の作品に見られる和声的ミニマリズムや一層単純化されたテクスチュアへと向かうグレツキの音楽的探求の一段階を示すものです。テクスチュアの単純化自体は彼の初期からの特徴でしたが、この時期からは特に三和音やオクターブといったよりシンプルな和声要素が積極的に取り入れられるようになります。

この時期のグレツキの作品が持つ宗教的な性格から、音楽評論家や音楽学者はしばしば彼を、同様に根源的な音楽の単純化や調性、旋律を追求し始め、宗教的な意味合いを持つ作品を手がけるようになった他の現代作曲家と関連付けようとしました。アルヴォ・ペルトやジョン・タヴナーといった作曲家たちがその例で、彼らはグレツキと共に「ホーリー・ミニマリズム」という用語で括られることもありましたが、こうした共通の括りに入った作曲家たちの間に、直接的な共通の影響があったとは誰も認めていません。

作曲と初演

交響曲第3番は1976年に作曲されました。世界初演は翌1977年4月4日、フランスのロワイヤンで開催されたロワイヤン国際現代芸術祭で行われました。この時の演奏は、エルネスト・ブール指揮、南西ドイツ放送交響楽団、そしてソプラノ独唱にステファニア・ヴォイトヴィチという顔ぶれでした。

初演後しばらく、この交響曲はまだ広く知られた作品ではありませんでしたが、1980年代頃からは日本の作曲科の授業でアナリーゼの教材として研究され始めるなど、徐々に注目を集めていきました。全曲の演奏時間は約54分です。

楽譜の出版はチェスター社とPWM（ポーランド音楽出版社）が行っています。当初はPWMのみの販売予定でしたが、後にチェスター社も出版を手がけることになり、その契約を巡って論争を呼んだ経緯があります。

日本での初演は、1994年3月7日にサントリーホールで行われました。沼尻竜典指揮、新星日本交響楽団、そしてソプラノ独唱は寺谷千枝子が務めました。

編成

この交響曲は、管弦楽とソプラノ独唱のために書かれています。使用される楽器編成は以下の通りです。

フルート 4（うち2本はピッコロ持ち替え）
クラリネット 4
ファゴット 2
コントラファゴット 2
ホルン 4
トロンボーン 4
ハープ
ピアノ
ソプラノ独唱
弦五部（第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）

楽曲構成

交響曲第3番は、以下の3つの楽章から構成されています。作品全体を通じて非常にゆっくりとしたテンポが特徴であり、伝統的な「交響曲」の形式からは大きく逸脱した独自の構造を持っています。

第1楽章
速度標語: Lento（ゆっくりと）
歌詞の典拠: 15世紀のポーランドのラメント（悲歌）
特徴: 中央を頂点とするような独特な3部旋法性に基づき、厳格なカノン形式で書かれています。
第2楽章
速度標語: Lento e largo - Molto lento（ゆっくりと、幅広く - 非常にゆっくりと）
歌詞の典拠: ナチス・ドイツのゲシュタポ収容所の壁に、ある少女が書き残した言葉
特徴: 劇的な感情を秘めた楽章です。
第3楽章
速度標語: Lento - Lento e largo - Molto lento - Largo ben tenuto（ゆっくりと - ゆっくりと、幅広く - 非常にゆっくりと - 幅広く、十分に保って）
歌詞の典拠: ポーランドの民謡
特徴: 作品を静かに閉じます。

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