交響曲第3番 (ニールセン)

カール・ニールセン：交響曲第3番ニ短調『広がり』

概要

デンマークの作曲家、カール・ニールセンの主要な管弦楽作品の一つ、交響曲第3番ニ短調『Sinfonia Espansiva』（エスパンシーヴァ）は、1910年から1911年にかけて作曲されました。作品番号はOp.27、ニールセン作品番号（FS番号）は60です。特に、第2楽章に声楽パートが取り入れられている点や、その楽章の牧歌的な雰囲気から、「ニールセンの田園交響曲」という愛称でも知られています。

タイトルについて

『エスパンシーヴァ』（広がり）というタイトルは、第1楽章冒頭に付された発想記号「Allegro espansivo」（広がりをもって、外へ向かっていくように速く）に由来しています。このタイトルには、特定の情景や物語を描写する意図は込められていないとされています。

全体の特徴と位置づけ

この交響曲第3番は、ニールセンが自身の音楽語法をさらに拡張し、後の交響曲（第4番『滅し得ざるもの』、第5番、第6番『シンフォニア・センプリチェ』）で見られるような、より独創的で実験的な表現へと進んでいく上での重要な転換点を示す作品と位置づけられています。その象徴的な試みとして、第2楽章における声楽（ソプラノとバリトン）の導入が挙げられます。歌詞を持たない無言歌（ヴォーカリーズ）として用いられるこの手法は、後の交響曲におけるティンパニの独奏的な扱い、アドリブ的な小太鼓のパート、あるいはトロンボーンによる連続的な下降グリッサンドといった、既存の枠にとらわれない楽器法の探求に先立つものと解釈できます。

各楽章について

全4楽章構成です。

第1楽章 アレグロ・エスパンシーヴォ

ソナタ形式で書かれています。力強く畳みかけるような和音の連打で開始され、続いて活気に満ちた第一主題が現れます。音楽評論家ロバート・シンプソンは、この主題を「競技的な3拍子」と評しました。対照的に、木管楽器によって奏でられる第二主題はより穏やかで叙情的です。これらの主題が展開され、エネルギッシュなクライマックスへと導かれます。

第2楽章 アンダンテ・パストラーレ

牧歌的で穏やかな雰囲気を持つ楽章です。北欧の自然を思わせるような抒情的な旋律が登場します。この楽章の最も特徴的な要素は、舞台裏で歌われるソプラノとバリトンによるヴォーカリーズです。人間の声が楽器として用いられ、楽章全体の田園的な色彩を深めます。作曲者の指定により、これらの声楽パートはクラリネットとトロンボーンで代替することも可能です。

第3楽章 アレグレット・ウン・ポーコ

スケルツォ楽章に似た性格を持っています。軽快さとユーモアが感じられる音楽が展開されます。

第4楽章 アレグロ

力強く堂々とした終楽章です。主要な主題は、ヨハネス・ブラームスの交響曲第1番のフィナーレ主題との類似性がしばしば指摘されます。この楽章によって、全曲は力強く、そして希望に満ちた雰囲気で閉じられます。

オーケストラ編成

オーケストラは、通常の2管編成を基本としつつ、一部拡張された編成が採られています。

木管楽器: フルート3（うち1本はピッコロに持ち替え）、オーボエ3（うち1本はイングリッシュ・ホルンに持ち替え）、クラリネット3、ファゴット3（うち1本はコントラファゴットに持ち替え）
金管楽器: ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ
打楽器: ティンパニ
弦楽器: 弦5部（第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス）
* 声楽: ソプラノ独唱、バリトン独唱（楽譜では、それぞれクラリネット、トロンボーンによる代替も可能と指定されています）

初演と出版

世界初演は1912年2月28日、コペンハーゲンの宮廷劇場で行われました。演奏は宮廷劇場管弦楽団で、作曲者であるカール・ニールセン自身が指揮を務めました。楽譜は1913年にドイツのライプツィヒにあるカーント社から出版されています。

演奏時間

スコアには演奏時間の目安として約32分と記されていますが、実際の演奏ではテンポ設定などにより、通常35分から38分程度の時間を要することが多いです。

カール・ニールセンの交響曲第3番『広がり』は、その独創的な構成と魅力的な楽想によって、彼の交響曲の中でも特に親しまれている作品の一つです。

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