交響曲第3番 (メンデルスゾーン)

交響曲第3番 イ短調 作品56『スコットランド』

フェリックス・メンデルスゾーンが作曲した交響曲第3番イ短調作品56は、彼の最後の交響曲であり、『スコットランド』の愛称で広く知られています。この作品は、メンデルスゾーンが1829年のスコットランド旅行で得たインスピレーションを基に作曲されました。第3番という番号は出版順によるもので、実際には第4番『イタリア』や第5番『宗教改革』よりも後に完成しました。

概要

『スコットランド』という愛称は、メンデルスゾーンが1829年のスコットランド旅行中に、家族への手紙で「スコットランド交響曲の始まりを見つけた」と述べたことに由来します。彼は第1楽章の冒頭の旋律の原型をスケッチしており、この曲がスコットランドの風景や雰囲気に影響を受けていることを示唆しています。メンデルスゾーン自身は公式に副題を付けていませんでしたが、手紙や献呈先への言及から、この曲とスコットランドの関連性を示唆しています。

ロマン派音楽の交響曲を代表する作品であり、全4楽章は連続して演奏されるように指示されています。しかし、各楽章は終止によって明確に区切られており、緩やかな連続性を持つことから、シューマンの『交響曲第4番』のように全楽章の統一性を強く意図したものではありません。

初演は1842年3月3日、メンデルスゾーン自身の指揮により、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団によって行われました。その後、メンデルスゾーンはイギリスを訪問し、ヴィクトリア女王に謁見してこの曲を献呈する許可を得ました。献辞付きの楽譜は1843年に出版されました。

作曲の経緯

1829年、メンデルスゾーンはバッハの『マタイ受難曲』を蘇演し、初めてイギリスへ渡りました。スコットランドを旅した際、エディンバラのホリールードハウス宮殿の修道院跡で16小節分の楽想を書き留めました。これが、後の第1楽章の序奏部分の原型となりました。

しかし、その後メンデルスゾーンはイタリア旅行やライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の指揮者就任など多忙な日々を送ったため、作曲は10年以上も中断しました。本格的に作曲が再開されたのは1841年で、全曲が完成したのは1842年1月20日でした。メンデルスゾーンは速筆で知られていますが、この作品に関しては例外的に長い年月をかけて完成させています。

楽器編成

フルート 2、オーボエ 2、クラリネット 2、ファゴット 2、ホルン 4、トランペット 2、ティンパニ、弦五部

曲の構成

全4楽章構成で、演奏時間は約40分です。

第1楽章 アンダンテ・コン・モート - アレグロ・ウン・ポコ・アジタート

イ短調、4分の3拍子、序奏付きのソナタ形式で、提示部にはリピート指定があります。序奏は幻想的で悲劇的な旋律で始まり、属音から主音へ4度跳躍する4音の音型は全曲の基本動機として各楽章に現れます。主部は弦楽器とクラリネットが弱音で第1主題を提示し、展開部では各主題が扱われます。再現部は短縮され、コーダでは序奏の主題が戻ってきて静かに楽章を閉じます。

第2楽章 ヴィヴァーチェ・ノン・トロッポ

ヘ長調、4分の2拍子、ソナタ形式。スケルツォ風の楽章で、短い前奏に続き、木管楽器がスコットランド民謡を思わせる旋律を奏でます。これが第1主題で、第1楽章の序奏主題の動機に基づいています。展開部では第1主題が中心となり、各楽器が追いかけ合うように演奏されます。再現部では第2主題が強奏され効果を高めています。

第3楽章 アダージョ

イ長調、4分の2拍子、ソナタ形式。短い序奏の後、歌謡的な第1主題が第1ヴァイオリンで提示され、葬送行進曲風の第2主題がクラリネット、ファゴット、ホルンで厳かに奏でられます。展開部では序奏と第2主題が扱われ、その後、再現部を経て長めのコーダへと進みます。

第4楽章 アレグロ・ヴィヴァチッシモ - アレグロ・マエストーソ・アッサイ

イ短調からイ長調に転じ、2分の2拍子（アラ・ブレーヴェ）から8分の6拍子に変わります。ソナタ形式に後奏が付加されています。低弦が激しくリズムを刻み、ヴァイオリンが広い音域で第1主題を示します。展開部では第1主題と経過句の動機が中心に扱われ、再現部は短縮されています。コーダでは第1主題に基づいて激しく盛り上がり、その後、静まって第2主題が奏でられた後、新たな旋律によって壮大に高まり全曲を明るく締めくくります。

クレンペラー版

指揮者オットー・クレンペラーは、第4楽章のコーダに対して批判的な意見を持っていました。彼が指揮した録音の中には、コーダ後半部分をカットし、独自のコーダを演奏したものがあります。この演奏では、イ長調の新しい旋律は現れず、短調のまま静かに閉じられます。

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