交響曲第4番 (シベリウス)

ジャン・シベリウス：交響曲第4番 イ短調 作品63

1911年に完成されたジャン・シベリウスによる交響曲第4番イ短調 作品63は、作曲家自身の深い内面が色濃く反映された作品です。

作曲の背景

この交響曲の創作には、シベリウスが経験した深刻な健康問題が深く関わっています。1908年、彼は喉に腫瘍が見つかり、手術を受けました。病巣は無事に摘出されたものの、再発防止のため飲酒と喫煙を禁じられるなど、厳しい予後を過ごすことになります。この経験はシベリウスに死を強く意識させ、この時期の作品には、暗闇の中にかすかな光明を求めるような張り詰めた精神性が宿ります。交響曲第4番は、その精神的探求が最も純粋な形で結晶化した作品と言えるでしょう。

また、病から回復した1909年には、義兄エーロ・ヤルネフェルトと共に北カレリアのコリ山地を旅しました。シベリウスはこの旅を「人生で最も素晴らしい経験の一つ」と振り返っており、後の構想に「山」という言葉が現れるなど、自然からの示唆があったことがうかがえます。しかし、作曲家自身が「心理的交響曲」と称したように、これは風景描写ではなく、長い闘病生活での不安や希望、そして回復後の充足感といった内的な経験が根幹を成す作品です。

作品の全体像

この交響曲は、伝統的な楽式にとらわれない自由な形式で書かれています。主要主題と有機的に関連する短いモチーフが精緻に組み合わされ、抑制された、時に室内楽的なオーケストレーションと相まって、極めて純度の高い、張り詰めた音楽世界を構築しています。音楽研究家セシル・グレイは、その凝縮された表現力を「無駄な音が一つもない」と絶賛しました。

初演、出版、献呈

作品は1910年に着手され、1911年3月末に完成しました。同年4月3日にヘルシンキで作曲者自身の指揮により初演されましたが、その難解さから聴衆や批評家からの評判は芳しくありませんでした。それでもシベリウス自身の作品に対する確信は揺るぎませんでした。出版は1912年、ブライトコプフ・ウント・ヘルテル社から。義兄エーロ・ヤルネフェルトに献呈されています。

楽器編成

フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、グロッケン、弦楽五部。特に第4楽章のグロッケンについては、グロッケンシュピールかチューブラーベルかなど、解釈が分かれます。実用的な観点からグロッケンシュピールが使われることが多いようです。

各楽章詳細

第1楽章 Tempo molto moderato, quasi adagio - Adagio

イ短調。導入後、チェロによる沈鬱な主要主題が登場し、有機的に関連する短いモチーフと共に展開します。再現部は変則的な構造を持ち、静かに終わります。演奏時間はおおよそ10-12分です。

第2楽章 Allegro molto vivace

ヘ長調。スケルツォ楽章。短いトリオと長い終結部を持つ変則的な形式。オーボエによる軽妙な主題、弦によるトリオ主題が現れ、幻想的な結尾を経て唐突に終止します。演奏時間はおおよそ4-5分です。

第3楽章 Il tempo largo

嬰ハ短調。瞑想的な楽章。長大な序奏後、チェロが主要主題を提示。短いモチーフが巧みに組み合わされ、深い思索へと誘います。演奏時間はおおよそ9.5-11分です。

第4楽章 Allegro

イ長調～イ短調。A-B-A-Bに近い構造。冒頭、第1ヴァイオリンが主要主題を提示。グロッケン（通常グロッケンシュピール）が特徴的に使われます。静かに、しかし唐突に終止します。演奏時間はおおよそ9-10分です。

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