交響曲第4番 (ニールセン)

カール・ニールセン：交響曲第4番 作品29 FS 76 『不滅』

カール・ニールセンの交響曲第4番は、第一次世界大戦の勃発という激動の時代、1914年から1916年にかけて作曲されました。作品には、作曲者自身の手によってデンマーク語で「Det Uudslukkelige」という副題が与えられています。これは「消し去り難いもの」「滅ぼし得ぬもの」といった意味を持ち、日本ではその力強い響きから簡潔に『不滅』という名で広く親しまれています。ドイツ語圏では「Das Unauslöschliche」と表記されることもありますが、原題がそのまま用いられることは比較的稀です。

この交響曲の最も顕著な特徴の一つは、その独特な楽章構成です。従来の交響曲のように明確に区分された四つの楽章を持つのではなく、曲全体が切れ目なく、異なる楽章の要素が連続的に移り変わる形で進行します。そのため、しばしば四楽章形式や二楽章形式の作品と誤解されがちですが、作曲者の意図としては単一の大きな流れを持つ作品として捉えられています。特に、二人の奏者によって対峙するように配置されたティンパニの壮絶な掛け合いは、作品に圧倒的な劇性と緊張感をもたらしており、ニールセンが生涯に残した交響曲の中でも、特に感情豊かでダイナミックな表現が際立つ傑作と位置づけられています。

ニールセンは、この第4番以降の交響曲において、それまでの調性音楽の枠組みからの脱却を試み、多調性（複数の調が同時に響き合う手法）を積極的に採用するようになります。彼の最後の三つの交響曲（第4番から第6番まで）において、基本的な調が記されていないのは、古典的な交響曲のように特定の主調を設定し、そこからの展開や対比によって構成するという概念から離れようとした、作曲家の強い意志の表れと言えるでしょう。この第4番は、ニ短調による全奏（Allegro）で幕を開けますが、クラリネットによるイ長調の旋律が挿入されるなど、早くも調性の揺らぎが示唆されます。続いて現れる第2部（Poco allegretto）は、ト長調を基調とした、どこか気楽で田舎風の牧歌的な雰囲気を持ちます。伝統的な緩徐楽章の役割は、悲劇的な色合いを帯びた第3部（Poco adagio quasi andante）に引き継がれ、深い内省と痛切な感情が描かれます。そして、フィナーレにあたる第4部（Allegro）では、二群のティンパニが激しく打ち合い、まさに「不滅」の副題にふさわしい、抗いがたい生命の力を表現します。最終的には、それまでの調性的な葛藤を乗り越えるかのように、力強いホ長調の響きで華やかに締めくくられます。

ニールセンの交響曲の中でも、この第4番は最も広く演奏され、録音される機会に恵まれています。しかし、その解釈には特有の難しさがあることでも知られており、イギリスの作曲家で音楽評論家でもあるロバート・シンプソンは、自身の著書の中で、特に作品全体のテンポ設定の問題に多くのページを割いて論じています。約35分を要するこの大作は、フルート（ピッコロ持ち替え）、オーボエ、クラリネット、ファゴット（コントラファゴット持ち替え）各3、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、そして特筆すべきはティンパニ奏者2名を含む、大規模なオーケストラ編成で演奏されます。

世界初演は、作曲家自身の指揮により、1916年2月1日にデンマークのコペンハーゲンで行われました。日本においては、1968年6月30日に秋山和慶指揮の東京交響楽団によって初めて演奏されました。

本作品は、クラシック音楽ファンのみならず、様々なメディアを通じてその存在を知られています。例えば、SFアニメの金字塔『銀河英雄伝説』では、劇場版第1作やOVAにおいて、第4部の激しいティンパニのパートが宇宙空間での壮大な戦闘シーンのBGMとして効果的に使用されました。また、クラシック音楽を題材にした人気漫画・ドラマ『のだめカンタービレ』でも取り上げられています。さらに、特撮シリーズ『爆竜戦隊アバレンジャー』には、この交響曲をモチーフとしたキャラクター「ギガノイドスコア第11番『不滅』」が登場するなど、幅広いジャンルで引用され、その力強い音楽が多くの人々に影響を与えています。楽譜は国際楽譜ライブラリープロジェクト（IMSLP）で公開されており、その壮大な音楽世界を垣間見ることができます。

『不滅』という副題が示す通り、この交響曲は、困難な時代にあっても決して消え去ることのない生命の躍動、抵抗する力、そして未来への希望を力強く謳い上げた、ニールセンの代表作として今なお世界中で愛され続けています。

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