交響曲第5番 (シベリウス)

シベリウス：交響曲第5番 変ホ長調 作品82

ジャン・シベリウスが作曲した交響曲第5番 変ホ長調 作品82は、彼の円熟期を代表する傑作の一つです。1915年に初稿が完成し、その後幾度かの改訂を経て1919年に最終的な姿となりました。この作品は、緊迫感あふれる前作第4番とは対照的に、フィンランドの壮大な自然や生命の躍動を感じさせるような、開放的で祝祭的な雰囲気に満ちています。特に終楽章の有名な「白鳥のテーマ」や、力強い終結部は多くの人々に愛されています。

作曲の背景と改訂の歩み

この交響曲は、作曲家自身の50歳の誕生日（1915年）を祝う記念演奏会のための新作として構想が練られました。既に1914年秋には計画が始まり、同時期に第6番や第7番の楽想も着想されていましたが、記念演奏会という明確な目的があったため、この第5番が優先して作曲されました。作曲中の1915年4月、シベリウスは散歩中に近づいてくる春の気配からこの作品の重要なインスピレーションを得たことを、後に日記に記しています。

しかし、作曲は順風満帆ではありませんでした。作品が書かれた時期は第一次世界大戦下であり、フィンランド全体が経済的な困難に見舞われていました。シベリウス自身も生活のため、出版社からの要求に応じて歌曲やピアノ曲といった比較的短時間で完成する作品を手掛けざるを得ず、大作である交響曲の筆はなかなか進まなかったのです。彼は「ともかく現実的な仕事が先だ」と記しており、こうした状況が作曲の停滞を招きました。それでも、幸いにも予定されていた1915年12月8日の記念演奏会には間に合わせることができ、シベリウス自身の指揮による初演は熱狂的な成功を収めました。

しかし、作曲家自身は初演版の完成度に満足していませんでした。そのため、彼は翌1916年の秋に大規模な改訂に着手します。この第1次改訂稿は、初演からちょうど1年後の1916年12月8日、トゥルクで再びシベリウス自身の指揮によって演奏されました。さらにシベリウスは1917年に再度の改訂に取り組みますが、フィンランド独立前後の激動の時代にあたり、政情不安を避けるための避難生活などにより、作曲作業は思うように進みませんでした。最終的な第3稿（現在の最終稿）が完成したのは、実に1919年秋になってからのことです。この最終稿は、同年11月24日、ヘルシンキで作曲者自身のタクトのもと初演されました。以来、この1919年版が決定稿として定着し、現在演奏されるのはもっぱらこの版に基づいています。度重なる改訂は、作曲家がいかにこの作品の完成度を追求したかを示しています。

作品概要

この交響曲は1921年にデンマークのハンセン社から出版されました。

楽器編成

フルート2
オーボエ2
クラリネット2
ファゴット2
ホルン4
トランペット3
トロンボーン3
ティンパニ
* 弦楽五部

楽章構成

彼の前作である交響曲第4番が内向的で緊迫感に満ちているのに対し、この第5番は対照的に、外向的で伸びやかな、祝祭的な雰囲気を湛えています。これは、第4番の作曲時期に直面した健康上の不安（癌の疑い）から解放された安堵と、人生の大きな節目である50歳を迎えることへの偽らざる喜びの表れと解釈されています。特に、第1楽章と第3楽章に特徴的な、独立した楽章が融合された形式は、先行する第3番や、後に全楽章が統合される第7番へと繋がる、シベリウス独自の交響曲構成における重要な発展段階を示しています。全曲の演奏時間は約30分から34分程度です。

第1楽章 Tempo molto moderato - Allegro moderato (ma poco a poco stretto) - Vivace molto - Presto - Più Presto （変ホ長調）

この楽章は、緩やかなテンポのソナタ形式部分と、それに続くスケルツォ的なアレグロ部分が融合した独特の構造を持ちます。初稿では別々の楽章でしたが、改訂で統合されました。広大な北欧の風景を思わせる、ホルンによる雄大な問いかけに始まり、木管楽器が軽やかに応答する形で第1主題群が提示されます。「フルートのように」と指定された弦楽器のトレモロに乗って、木管楽器によって第2主題が提示された後、提示部は変奏を伴って繰り返されます。展開部では、ホルンを介して弦楽器が第2主題に基づいた半音階的な楽句を奏で、木管が応答します。ざわめく弦楽器の上にファゴットが現れ、音楽は一旦ラルガメンテ（幅広く）とテンポを落とし、自由な幻想曲のような趣きを帯びた後、高揚して再現部へ至ります。再現部では第1主題やそれに続くスケルツォ主題の変形が巧みに組み込まれ、アレグロ・モデラートのスケルツォ部分へと移行します。このスケルツォ主題は木管楽器による牧歌的な性格を持ちますが、第1主題の要素とも交錯しながら変奏的に展開します。中間主題（事実上のトリオ）はトランペットによって朗々と提示されます。やがて再びスケルツォの荒々しい雰囲気が回帰し、音楽は終結部に向かって徐々に高揚します。壮麗なクライマックスでは、プレストのテンポでトランペットが勝利のファンファーレのような終結主題を力強く奏で、楽章全体を締めくくります。演奏時間は12分から14.5分程度です。

第2楽章 Andante mosso, quasi allegretto - Poco a poco stretto - Tranquillo - Poco a poco stretto - Ritenuto al tempo I （ト長調）

変奏曲形式による緩徐楽章です。ヴィオラとチェロのピッツィカートが奏でる、素朴で温かみのある主題が提示されます。この主題が様々な楽器によって引き継がれながら、計6回の変奏が展開されます。穏やかで内省的な美しさを湛えた楽章です。演奏時間は8分から10分程度です。

第3楽章 Allegro molto - Misterioso - Un pochettino largamente - Largamente assai - Un pochettino stretto （変ホ長調 ）

A-B-A-B-コーダの構成を持つフィナーレ楽章です。弦楽器のトレモロが渦巻き、やがて低弦が推進力のある第1主題を提示します。それに応えるように、ホルンが特徴的な二分音符による「鐘のモチーフ」を奏でます。このモチーフは低弦による拡大形とも組み合わされます。いかにも田園的な、歌うような第2主題がフルート、オーボエ、そしてチェロによって奏されます。「ミステリオーソ（神秘的に）」と指示された中間部では、弱音器をつけた弦楽器のトレモロに乗って、第1主題が再現されます。第2主題もフルートとクラリネットによって回帰し、「幾分幅広く」という指示を経て展開されます。第2主題は弦楽器にも受け継がれ、「鐘のモチーフ」も加わります。さらに弦楽器が強調され、「十分にたっぷりと」という指示のもと、ホルンによって提示されたモチーフがトランペットによって朗々と歌われます。曲の終結部は、休符を挟んだ強烈な和音の連打が6回繰り返されるという、極めて印象的な形で締めくくられます。この終結部の和音は、しばしば雷鳴や勝利の宣言に例えられます。演奏時間は8分から10分程度です。

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