交響曲第5番 (メンデルスゾーン)

交響曲第5番ニ長調 Op.107「宗教改革」

フェリックス・メンデルスゾーンが1830年に作曲した交響曲第5番ニ長調（実際にはニ短調の要素も含む）は、彼の初期の作品でありながら、その後の交響曲作家としての地位を確立した重要な作品です。一般的には「宗教改革」という標題で知られていますが、これは初版の際に出版社によって付与されたもので、メンデルスゾーン自身が付けたものではありません。

この交響曲は、アウクスブルク信仰告白300周年を記念して作曲されました。曲中には、マルティン・ルター作曲のコラール「神はわがやぐら」や、ドイツの賛美歌「ドレスデン・アーメン」が用いられており、宗教的な雰囲気が色濃く漂います。しかし、初演はメンデルスゾーンの生前には叶わず、1868年に初めて出版されました。作品番号が第5番となっているのは、第1番から第4番までの出版が先行したためです。

若書きながら、既にシンフォニストとして完成の域に達したことを告げる堂々とした交響曲であり、現在ではこのジャンルにおける作曲者の最初の成功作とされています。

作曲の経緯

熱心なルター派信者であったメンデルスゾーンは、1829年12月にこの曲の作曲を開始しました。彼は翌年6月のベルリンにおける300年祭での演奏を計画していましたが、健康上の問題により完成が遅れ、祝祭での演奏は実現しませんでした。また、メンデルスゾーンがユダヤ系であったことが、実行委員会の決定に影響を与えた可能性も指摘されています。

完成後、メンデルスゾーンはライプツィヒでの演奏を試みましたが、写譜の遅れで実現せず、ミュンヘン、イタリア、パリでの演奏も失敗に終わりました。出版もなかなかされなかったこの作品は、1832年にベルリンで改訂され、ようやく初演にこぎつけました。しかし、その後も再演は1868年まで行われませんでした。メンデルスゾーン自身もこの作品に満足しておらず、「楽譜を破り捨てたいくらい、気に入らない」と述べていたそうです。

楽器編成

楽器編成は古典的な二管編成を基本としていますが、低音部にコントラファゴットとセルパン（現在はチューバで代用）が指定されています。

曲の構成

第1楽章：Andante - Allegro con fuoco

序奏付きソナタ形式で、厳かで壮麗な序奏主題が奏でられます。その後、不協和音を伴いながら繰り返され、管楽器によるミサの祈りのような旋律を経て、「ドレスデン・アーメン」が弦楽器で現れます。主部に入ると、序奏部で暗示されていた第一主題が力強く提示され、第二主題は伸びやかに奏でられます。展開部では両主題が華やかに展開され、再現部では第一主題が落ち着いた雰囲気で再現されます。コーダでは第一主題を力強く奏で、曲を閉じます。

第2楽章：Allegro vivace

軽快なスケルツォ主題が踊るように奏される三部形式の楽章です。トリオは優美で、軽快なスケルツォ主題との対比が際立ちます。

第3楽章：Andante

叙情的な歌曲風の主要主題が第一ヴァイオリンによって奏でられる短い楽章です。曲の終わりには第1楽章の第二主題が現れ、切れ目なく次の楽章へと続きます。

第4楽章：Choral：Ein' feste Burg ist unser Gott - Andante con moto - Allegro vivace - Allegro maestoso

自由なソナタ形式で、ルターのコラール「神はわがやぐら」がフルートで歌い出されます。その後、テンポを速めて主部に入り、第一主題が壮麗に、第二主題がリズミカルに奏でられます。展開部は存在せず、コラール主題が再現され、コーダではコラール主題が力強く壮大に奏でられ、全曲を締めくくります。

その他

メンデルスゾーンがこの曲で使用した「ドレスデン・アーメン」は、ワーグナーの楽劇「パルジファル」でも「聖杯の動機」として用いられています。

参考文献

『メンデルスゾーン交響曲第5番ニ短調作品107 〔宗教改革〕』全音楽譜出版社、2019年。
池辺晋一郎『メンデルスゾーンの音符たち　池辺晋一郎の「新メンデルスゾーン考」』音楽之友社、2018年。
パトリック・カヴァノー著、吉野幸弘訳『大作曲家の信仰と音楽』教文館、2000年。

外部リンク

* 交響曲第5番「宗教改革」の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)

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