交響曲第6番 (スタンフォード)

スタンフォード：交響曲第6番 変ホ長調 「G.F.ワッツの想い出に」 Op.94

チャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォードによる交響曲第6番は、変ホ長調、作品94として知られ、「G.F.ワッツの想い出に」という献呈名を持っています。演奏時間は概ね36分程度です。

概要

この交響曲は、1904年に逝去したヴィクトリア朝を代表する画家であり彫刻家でもあったジョージ・フレデリック・ワッツ（当時の批評家からは「イギリスのミケランジェロ」と称されるほどの巨匠でした）を追悼し、彼の芸術作品から着想を得て作曲されました。スタンフォードは、特にワッツの代表的な絵画である「愛と生（Love and Life）」や「愛と死（Love and Death）」といった作品群から霊感を得て、それらを音楽として表現することを試みました。
作曲作業は1905年5月に開始され、非常に迅速に進められ、同年7月19日には完成に至っています。初演は翌1906年1月18日、ロンドンのクイーンズ・ホールにて作曲者自身の指揮で行われました。その後、1907年にボーンマスで再演の機会がありましたが、残念ながらそれ以降は演奏される機会が極めて稀になり、長く忘れ去られた状態が続いていました。

楽曲構成

本作品は、古典的な4つの楽章構成を採用していますが、各楽章にはワッツの芸術作品に触発された標題的な要素が見られます。

第1楽章：アレグロ・コン・ブリオ

快活で力強いソナタ形式の楽章です。冒頭に提示される第1主題は明るく躍動的で、これに対比されるチェロが奏でる第2主題もまた生命力に満ちています。展開部に入ると、突然として「死」を暗示するような主題が現れ、深刻な雰囲気を醸し出しますが、楽章全体としては支配的な快活さを保ち、明るい調子で閉じられます。

第2楽章：アダージョ・エ・モルト・エスプレッシーヴォ

叙情性が際立つ緩徐楽章で、ワッツの絵画「愛と生」に触発された「愛」のテーマが中心となります。優美な旋律はハープの繊細な伴奏に乗って奏でられ、特にコーラングレの豊かな音色が効果的に用いられ、深い情感を表現します。楽章の終盤では、この「愛」のテーマが第1楽章にも現れた「死」のテーマと静かに組み合わされ、儚くも美しい響きの中で楽章が閉じられます。

第3楽章：スケルツォとトリオ（プレスト）

劇的な性格を持つ主題で開始される快速なスケルツォ楽章です。これに対比される長調のトリオ部分も、スケルツォと同じ主題素材から派生していますが、より軽快で舞曲風な性格を帯びています。この楽章は、ギャロップを思わせるようなリズミカルな勢いを保ったまま、アタッカ（切れ目なく）でそのまま終楽章へと突入します。

第4楽章：モデラート・エ・マエストーソ

前のスケルツォ楽章から間断なく続くフィナーレです。勇壮で威厳のある主題が提示され、楽章全体を力強く推進していきます。展開は非常に複雑で多層的であり、ここでは第2楽章の「愛」のテーマが再び登場し、「死」のテーマと一体となって展開されます。最終的には、激しい動機の応酬を経て、あたかもワッツの描いた世界観を音楽で総括するかのように、安らぎに満ちた静けさの中で全曲が結ばれます。

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