交響曲第9番 (ショスタコーヴィチ)

交響曲第9番 変ホ長調 作品70

ドミートリイ・ショスタコーヴィチが作曲した9番目の交響曲は、第二次世界大戦の終結という大きな転換期に発表されました。この作品は、一見すると軽快で明るい音楽でありながら、当時の社会情勢に対する作曲家の複雑な感情が込められています。

作曲の背景

ショスタコーヴィチは、第7番「レニングラード」と第8番という、戦争の悲惨さを描いた重厚な交響曲を作曲しました。そのため、戦勝を記念する交響曲第9番に対して、人々はベートーヴェンの第九のような壮大で感動的な作品を期待しました。しかし、ショスタコーヴィチが発表した第9番は、予想を裏切る軽妙洒脱な作品でした。

当初、ショスタコーヴィチ自身も「祖国の勝利と国民の偉大さをたたえる合唱交響曲」を作曲すると公言していました。しかし、完成した作品は合唱を伴わない管弦楽曲であり、その音楽は祝祭的な雰囲気とは裏腹に、どこか皮肉めいた響きを持っていました。

初演と評価

1945年11月3日、エフゲニー・ムラヴィンスキーの指揮によって初演されたこの交響曲は、聴衆から一定の評価を得ました。しかし、政府関係者はこの作品を「スターリンを揶揄するもの」と受け止めました。その結果、ショスタコーヴィチは「当惑を引き起こし、同時代の感じる理念や感情からほど遠い」と批判され、ジダーノフ批判へとつながり、苦境に立たされることになります。

楽曲構成

全5楽章から構成され、演奏時間は約25分です。

第1楽章: Allegro、変ホ長調。軽快な導入部から始まり、ピッコロによるユーモラスな主題が展開されます。
第2楽章: Moderato - Adagio、ロ短調。クラリネットによる虚無的な旋律が印象的な、緩徐楽章です。
第3楽章: Presto、ト長調。スケルツォ。明るい主題と半音階的な主題が交互に現れ、華やかな雰囲気を作り出します。
第4楽章: Largo、変ロ短調。トロンボーンとチューバによるファンファーレ、ファゴットのカデンツァが印象的な短い楽章です。
* 第5楽章: Allegretto、変ホ長調。行進曲風の主題が、物悲しさを帯びながら展開されます。ユダヤの民謡旋律がパロディとして用いられているという解釈もあります。

楽器編成

フルート3（第3フルートはピッコロ持ち替え）、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、タンバリン、弦五部

まとめ

交響曲第9番は、一見すると明るく軽快な作品ですが、その背景には、戦争終結直後の社会に対するショスタコーヴィチの複雑な感情が込められています。この作品は、表面的には勝利を祝う音楽でありながら、その裏には社会への批判や風刺が隠されているという、二重構造を持った作品と言えるでしょう。

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