人恋しくて (アルバム)

南沙織のキャリアにおいて、円熟期へと差し掛かる頃にリリースされた通算12枚目のオリジナルアルバムが『人恋しくて』です。この作品は1975年12月5日、CBSソニーより世に送り出されました。

アルバムのタイトルにもなった楽曲「人恋しくて」は、本作発表に先立つ同年8月1日に16枚目のシングルとして発売され、オリコンチャートでベストテン入りを果たすヒットとなりました。この曲は1975年末の音楽シーンを彩り、第17回日本レコード大賞では歌唱賞を受賞、そして第26回NHK紅白歌合戦へ5年連続での出場を果たす原動力ともなりました。本作には、この「人恋しくて」とそのB面曲「ひとつぶの涙」が、いずれもアルバム用にアレンジされたバージョンで収められています。

また、同年11月21日に発売された17枚目のシングル「ひとねむり」も収録。さらに、翌年5月31日リリースの19枚目シングル「青春に恥じないように」のB面曲「窓灯り」も収められており、当時のシングル作品をアルバムの流れで聴くことができる構成となっています。

本作には、「人恋しくて」のような情感豊かな楽曲だけでなく、数少ないアップテンポナンバーである「六本木」も収録されています。この「六本木」は、1978年10月に行われた南沙織のさよならコンサートでも歌唱され、そのライブ音源は同年12月5日に発売されたライブアルバム『Good-by Cynthia』に収録され、後にCD化もされています。

このアルバムを彩る作家陣も注目に値します。作詞家では石坂まさを、落合恵子、中里綴、有馬三恵子らが名を連ね、作曲・編曲家としては筒美京平、川口真、水谷公生、林哲司、萩田光雄といった、当時の日本の音楽シーンを代表する顔ぶれが集まっています。

特に興味深いのは、「哀しみの家」「シャワーの中で」「夢をかえして」の作曲を手がけた「五大洋光」という名義です。これは、ロック界のカリスマ、矢沢永吉のペンネームとして知られています。矢沢永吉が他のアーティストに楽曲提供を行うのは非常に珍しいことであり、本作における参加は特筆すべき点です。また、本作にはリリース当時人気を博していたDJの落合恵子が作詞家として初めて起用された楽曲「ひとねむり」「想い出のかけら」「ひさしぶりね」が収められています。

アルバム発売当時のLPには、「17才…20才…そして今－」というコピーが帯に記されており、デビューから数年を経て20歳を迎えた南沙織の成長や心境の変化を感じさせるコンセプトとなっています。また、「20才ばなれ」という名のフォト集が封入されていたことも、当時の彼女のビジュアル面での魅力を伝える要素でした。

CD時代に入ってからも数度にわたり再発されており、特に2006年には紙ジャケット仕様の高音質マスターサウンド盤としてリリースされました。これは、南沙織デビュー35周年記念のCD-BOX『Cynthia Premium』の一枚として収録されたもので、個別には販売されていません。この『Cynthia Premium』収録盤には、オリジナル盤の収録曲に加え、「ひとねむり」のB面曲「おはようさん」や、「人恋しくて」「ひとつぶの涙」のシングル・バージョンがボーナストラックとして追加収録されています。

なお、2008年時点の情報では、本作のCDパッケージでの生産は既に終了しており、現在は主に音楽配信サービスを通じて入手が可能となっています。

『人恋しくて』は、当時のヒットシングルを核としつつ、多彩な作家陣によるオリジナル楽曲で構成された、南沙織のキャリアを語る上で欠かせない、聴きごたえのある一枚と言えるでしょう。

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