人痘接種法

人痘種痘法（じんとうしゅとうほう）とは

人痘種痘法、または人痘接種法（以下「人痘法」）とは、天然痘に罹患した患者の膿疱や痂皮の一部を、天然痘未感染者に接種することで、天然痘ウイルスに対する免疫を人工的に獲得させる方法です。これは人類最初の予防接種とされています。

人痘法の歴史

人痘法は、紀元前1000年頃のインドで既に試みられていたとされ、中国でも古くから行われていました。15世紀の中国の書物には、人痘法による種痘の記述が残されています。日本では、1744年に中国の医師によって伝えられ、1790年には緒方春朔が独自の改良を加えて普及に尽力しました。

日本における人痘法

日本では、天然痘の流行に備え、予めウイルスを感染させて免疫を獲得するという考え方で、人痘法が行われました。これは現代の免疫療法の先駆けとも言えます。

中国では、患者の膿や痂皮を「痘苗」として用い、様々な方法で接種が行われていました。その際、「水苗種法」「旱苗種法」といった表現が用いられ、種痘が植物栽培のような概念で捉えられていたことが伺えます。「種痘」という言葉自体、「痘（おでき）を植えつける」という意味で用いられ、その概念は牛痘法にも引き継がれました。

日本に人痘法が伝わったのは1744年で、長崎に訪れた中国の医師・李仁山によるものです。その後、緒方春朔が中国の医学書を参考に独自の改良を加え、痘痂の粉末を鼻から吸引させる方法を考案しました。春朔はこの方法で多くの子供たちを天然痘から守りました。

用語の区別：人痘法（Variolation）と牛痘法（Vaccination）

天然痘に対する種痘法には、人痘法（Variolation）と牛痘法（Vaccination）の二つがあります。どちらも天然痘を防ぐための予防接種ですが、その手法と起源が異なります。

人痘法は、天然痘患者由来の膿や痂皮を使用し、免疫を誘導する方法です。一方、牛痘法は、牛痘を発症した牛から採取した膿を使用します。また、人痘法では天然痘ウイルスそのものが用いられますが、牛痘法では牛痘ウイルスやワクチニアウイルスが使用されます。

「Vaccination」という言葉は、1800年にエドワード・ジェンナーが牛痘法を確立した際に、ラテン語で「牛」を意味する「Vacca」から名付けられました。当初は牛痘法を指す言葉でしたが、ルイ・パスツールがジェンナーの功績を称え、あらゆる感染症に対する予防接種を「Vaccination」と呼んだことから、その意味が拡大しました。

人痘法に関する関連書籍

人痘法についてより深く知りたい方は、以下の書籍を参照してください。

『種痘伝来－日本の＜開国＞と知の国際ネットワーク』（アン・ジャネッタ著、廣川和花/木曾明子訳）
『天然痘予防に挑んだ秋月藩医緒方春朔』（富田英壽著）
『雪の花』（吉村昭著）

関連項目

チャールズ・メイトランド (医師) - 1720年代にイギリスで人痘接種法を行った医師

人痘法は、天然痘という人類を長年苦しめてきた感染症との闘いにおいて、重要な役割を果たしました。その歴史と意義を理解することは、現代の感染症対策にもつながるでしょう。

もう一度検索