仁寿舎利塔

仁寿舎利塔（じんじゅ しゃりとう）

仁寿舎利塔は、中国の隋の文帝が仁寿年間（601年 - 604年）に、国内各地に建立させた仏舎利を奉納するための塔です。年号から「仁寿」の名が付けられました。仏教的な読み方（呉音読み）で「にんじゅ しゃりとう」と呼ばれることもあります。

文帝は即位当初より仏教事業に力を入れており、大興善寺の建立や僧官の設置などを行ってきました。その文帝が晩年に打ち出したのが、この舎利塔の建立事業でした。背景には、インドのアショカ王が世界各地に八万四千のストゥーパを建立したという故事があります。文帝は自身を奉仏皇帝と位置づけ、その統治下にある国内に仏舎利を迎え、塔を建立することで、仏教による国家の安定と繁栄を目指したのです。

舎利塔の建立は、仁寿元年（601年）に30州、仁寿二年（602年）に53州、仁寿四年（604年）に30余州と、3回に分けて行われました。これにより、中国全土の約114州という広範囲に舎利塔が建立されることとなりました。この事業は、後の唐代における龍興寺や開元寺といった各地の国家寺院、さらには武則天の大雲経寺といった寺院の先駆けとなり、日本の国分寺建立にも影響を与えたと考えられています。

残念ながら、現在まで創建当時の姿を留める仁寿舎利塔は残っていません。しかし、開眼法要の際に塔に納められた舎利塔銘の銘文が拓本として今日に伝えられています。また、塔本体の遺例としては、南京の棲霞寺や杭州の霊隠寺に、仁寿舎利塔の流れを汲むという伝承を持つ塔が現存しています。これらの塔は、仁寿舎利塔の様式や思想を受け継ぐものとして、その歴史を今に伝えていると言えるでしょう。

仁寿舎利塔は、隋代における仏教の隆盛を示すとともに、その後の中国仏教、そして日本の仏教にも大きな影響を与えた重要な文化遺産です。


参考文献
山崎宏『隋の高祖文帝の佛教治國策』（東方書院, 1934年）
山崎宏『支那中世仏教の展開』（清水書店, 1942年）
小杉一雄『中国仏教美術史の研究』, 新樹社, 1980年
浅田守「隋代仏教政策に関する研究」（『龍谷大学大学院研究紀要』9号,1988年）

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