仁風閣

仁風閣は、鳥取県鳥取市に静かに佇む、明治期の歴史的な西洋建築です。

概要

この建物は、中国地方における明治時代の代表的な洋風建築の一つとして高く評価されており、国の重要文化財に指定されています。その外観は、優雅なフランス風ルネサンス様式を基調としています。

建築の特徴

仁風閣は木造2階建てで、全体が清潔感のある白亜で塗られています。フランス風ルネサンス様式の特徴が随所に見られます。

1階と2階にはそれぞれ広々としたベランダが設けられており、建物に開放感を与えています。特に2階のバルコニーはガラス張りになっており、ここからは鳥取市の名勝に指定されている池泉回遊式日本庭園、「宝隆院庭園」の美しい景観を一望することができます。

建物の正面右側には、他に類を見ない独特な構造を持つ螺旋階段があります。この階段は、一般的な支柱を用いることなく、厚いケヤキの板材によって巧みに支えられています。外観に見える角張った尖塔は、この螺旋階段の構造に対応する部分です。

内装にも贅が凝らされており、天井や壁には輸入品の壁紙が貼られ、床には当時の最高級品であったとされるアキスミンスターカーペットが敷かれるなど、華やかな空間が演出されています。

歴史

仁風閣は、鳥取城の扇御殿跡地に建設されました。1906年9月に、当時宮廷建築家として活躍していた片山東熊が設計を手がけ、橋本平蔵が現場監督を務めて着工されました。そして、翌1907年5月にわずか8ヶ月という短期間で竣工しました。建設にかかった費用は、当時の金額で4万3335円でした。

この建物は、表向きは旧鳥取藩主である池田仲博侯爵の別邸とされていましたが、計画当初から皇族の宿泊施設として設計・建築されたと考えられています。

実際に、完成した1907年に行われた皇太子嘉仁親王（後の大正天皇）の山陰地方への行啓の際に、御宿所として利用されました。仁風閣という印象的な名称は、この行啓に随行していた元帥海軍大将・東郷平八郎によって名付けられたもので、現在も東郷の手による命名額が館内に大切に保存されています。

明治時代以降、仁風閣は鳥取市の所有となりました。その後は迎賓館や公会堂として、様々な公式行事や集会に利用されてきました。

1943年の鳥取地震により建物は大きな損傷を受け、この時の修復工事で、創建当初のスレート屋根が瓦葺に変更されることになりました。また、1949年から1972年にかけては、鳥取県立科学博物館として約23年間使用され、現在の鳥取県立博物館が完成するまでその役割を果たしました。

1973年に国の重要文化財に指定されると、指定に伴い約3年間をかけて大規模な保存修復工事が行われ、創建当時の姿に近づける努力がなされました。

現在の利用

現在、仁風閣は公益財団法人鳥取市文化財団によって管理・運営されています。館内は一般公開されており、鳥取藩や池田家に関する歴史資料が常設展示されているほか、他の文化人（作家や歌人など）の所蔵資料を展示する特別展も随時開催されており、多くの来館者が訪れています。

建築概要

設計：片山東熊、橋本平蔵
施工：浜田芳藏
起工：1906年9月
竣工：1907年5月
敷地面積：約7,200平方メートル
延床面積：約1,046平方メートル
構造・規模：木造・地上2階建て
建設費用：43,335円（当時）
所在地：鳥取県鳥取市東町2丁目121番地

利用案内

開館時間：午前9時から午後5時まで（入館は午後4時30分まで）
休館日：毎週月曜日（ただし祝日の場合は開館）、祝日の翌日、年末年始
観覧料：一般150円、小・中・高校生は無料

交通アクセス

JR山陰本線鳥取駅から徒歩約30分、またはバス（日本交通・日ノ丸自動車）で約5分「西町」停留所下車後徒歩約5分です。また、鳥取市100円循環バス「くる梨」緑コースを利用し、「仁風閣・県立博物館」停留所で下車することも可能です。

周辺情報

仁風閣の周辺には、鳥取城跡やその敷地を含む久松公園、鳥取県立博物館、興禅寺、わらべ館、鳥取県立鳥取西高等学校などがあり、歴史や文化に触れることができるエリアとなっています。

その他

仁風閣は、その美しい外観から様々なメディアに登場しています。かつては地元の日本海テレビの放送終了時の背景映像として使用されたり、映画『舞姫』（1989年公開）では皇居のシーン、映画『るろうに剣心』（2012年公開）では架空の邸宅のロケ地として使用されるなど、映画ファンにも知られています。

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