今井野菊

今井野菊（いまい のぎく）

今井野菊は、1900年（明治33年）8月14日に生まれ、1982年（昭和57年）に亡くなった、日本の郷土史家であり歌人です。本名は今井すみ江といいます。

生い立ちと教育

長野県諏訪郡宮川村（現在の茅野市宮川）で生まれた今井野菊は、諏訪高等女学校（現在の諏訪二葉高等学校）に進学しました。女学校在学中から短歌に興味を持ち、『アララギ』に入会。島木赤彦と森山汀川に師事し、歌人としての才能を磨きました。

結婚と教職

1918年（大正7年）に女学校を卒業後、小学校の代用教員を務めました。翌年、19歳で寒天問屋「地紙世（ちがみせ）」の今井平左衛門と結婚。結婚後も、池坊華道の教授として活動し、地域の人々から「地紙世の先生」として親しまれていました。

郷土史研究への情熱

戦後、今井野菊は郷土史研究に本格的に取り組み始めました。『旧宮川村誌（史）』の編纂に尽力する傍ら、諏訪大社や諏訪地域の在地信仰（ミシャグジ、千鹿頭神、天白神など）の研究に没頭しました。特にミシャグジ信仰の研究に力を注ぎ、広範囲にわたる調査を行いました。

ミシャグジ研究の開拓

1953年（昭和28年）には、史家の細川隼人と共に旧宮川村誌（史）編纂研究会を設立し、古墳や遺跡の破壊状況を憂慮しました。編纂事業は困難を極め、最終的には今井一人で研究を続けることとなりました。今井は、ミシャグジ信仰に魅せられ、25冊に及ぶ研究成果を自費で印刷し、地元住民に無料で配布しました。寒天屋に出入りする人々や全国の教育委員会から情報を集め、実地調査では野宿も辞さなかったといいます。その研究成果は、「御社宮司（みしゃぐじ）の踏査集成」としてまとめられ、後世の研究に大きな影響を与えました。

研究の発展

今井野菊の研究は、山田宗睦や古部族研究会（北村皆男、野本三吉、田中基）によってさらに発展しました。古部族研究会のメンバーは、今井の教えを受け、その成果を『古代諏訪とミシャグジ祭政体の研究』、『古諏訪の祭祀と氏族』、『諏訪信仰の発生と展開』として出版しました。

歌人としての活動

今井野菊は、歌人としても才能を発揮し、多くの短歌を残しました。初期の作品は『諏訪短歌集』に収録され、その後も歌集『小林集』や『行雲』を発表しました。彼女の短歌は、自然や日常生活、信仰心を繊細に捉えたものが多く、その表現力は高く評価されています。

主な著作

『諏訪短歌集』（1929年） - 7首を提供
『小林集』（1937年）
『行雲』（1942年）
『長野県茅野市宮川西千野（山ノ神・横山）遺跡概報』（1958年）
『旧宮川村に於ける縄文式文化時代（附弥生式文化時代）遺跡』（1959年）
『諏訪ものがたり』（1960年）
『御社宮司をたずねて』（1964年）
『信濃氏族考』（1964年）
『洩矢民族 千鹿頭神』（1964年）
『大祝古墳の変遷』（1965年）
『信濃一之宮諏訪大明神前宮遺跡』（1966年）
『大祝 樋沢城史　信濃 安国寺史』（1966年）
『古墳調査票』（1966年）
『大天白神』（1971年）
『（研究結果における）御左口神と諏訪神社』（1973年）
『諏訪物語』（1975年）
「御作神」（1975年）
「御社宮司の踏査集成」（1975年）
『神々の里―古代諏訪物語―』（1976年）
「ちかとさま」（1978年）

関連項目

ミシャグジ
天白神
千鹿頭神
諏訪大社

今井野菊は、郷土史研究、特にミシャグジ信仰の研究に大きく貢献しました。彼女の情熱と努力は、後世の研究者や地域住民に大きな影響を与え続けています。

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