千鹿頭神

千鹿頭神（ちかとのかみ）

千鹿頭神は、長野県をはじめとする東日本、特に甲信・北関東・南東北地方で民間信仰を集める神です。その名前は「ちかとのかみ」または「ちかとうのかみ」と読まれます。

概要

諏訪地方の伝承では、千鹿頭神は洩矢神の御子神、孫神、またはその異名とされています。また、建御名方神の御子神である内県神と同一視されることもあります。

『神長守矢氏系譜』によれば、千鹿頭神は守宅神（洩矢神の子）の子であり、守矢氏の三代目にあたります。名前の由来は、守宅神が鹿狩りで1000頭の鹿を捕獲したという伝承にちなむとされます。系譜には、守宅神が父に代わって狩猟を行い、多くの鹿を捕獲したことが記され、その功績を称えて千鹿頭神と名付けられたとあります。

古代神楽歌

千鹿頭神を祀る古代神楽歌には、以下のようなものがあります。

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千鹿頭ノ キタノハヤシノ ススムシワ ススムシワ ヤチヨノコヱテ ツネニタイセヌ
千鹿頭ノ明神 シヤウシウレシト ヲホスラン ヲホスラン ユキタタイマノ 花ノキヨメヨ


これらの歌は、千鹿頭神が人々の繁栄と幸福を願う神であることを示唆しています。

祭祀

千鹿頭神は、諏訪郡の有賀・上原・埴原田・横吹・休戸、東筑摩郡の神田・林などで祀られています。特に宇良古山には古くから鎮座しており、かつては郡内30余りの村で祭神とされていました。后神として宇良古比売命が祀られており、この地には命の社があったと伝えられています。

伝承

児玉彦命は、建御名方神の孫にあたり、千鹿頭神の後を継いで祭政を主宰したとされます。児玉彦命は美都多麻比売神を娶り、八櫛神を産んだとされています。

『系譜』では、千鹿頭神が宇良古比売を娶り、宇良古山に移ったとありますが、これは千鹿頭神が諏訪から追放されたか、自ら離れたことを暗示すると考えられています。千鹿頭神の後継ぎが建御名方神の孫となっているのは、神氏が土着勢力の祭祀を肩代わりしたことを示すという説もあります。

また、千鹿頭神が在地の娘と結婚したという伝承は、松本だけでなく各地に見られます。例えば、信州から赤城山に来た「ちかと神」が赤城神の妹を娶ったという話も有名です。

信仰

ミシャグジ信仰の研究者である今井野菊によると、千鹿頭社は長野県のほか、山梨県、埼玉県、群馬県、栃木県、茨城県、福島県など、関東から東北にかけて広く分布しています。千鹿頭神は、「千賀多」「千方」「千勝」など、多くの異なる表記で表され、発音も「ちかた」「ちかつ」「ちかと（う）」など多様です。

これらの分布は、千鹿頭神が山岳地帯（八ヶ岳、榛名山、赤城山など）に沿って移動したことを示唆しており、狩猟に長けた山人集団（洩矢族の末裔）が東進する中で信仰が広まったと考えられています。狩猟の神として祀られていたことから、ミシャグジ信仰や天白信仰と深く関連していると考えられます。

今井の調査によると、山梨・埼玉・群馬ではミシャグジ社が千鹿頭社と重なっていることがわかっています。信州から来た狩猟の神である一方、農耕や火防の神として祀られる地域もあり、ミシャグジや天白神と同様に石棒を神体とする場所もあります。


多くの神社では祭神が変更されており、長野県内でも地域によって祭神が異なります。未調査の神社や地域も多く、まだ謎の部分が多く残されています。

主な神社

以下に、主な千鹿頭神を祀る神社を地域別に示します。

甲信地方

神田千鹿頭神社・林千鹿頭神社（長野県松本市神田・里山辺）
千鹿頭神社（長野県諏訪市豊田有賀）
千鹿頭神社（長野県茅野市ちの上原）
千鹿頭神社（長野県茅野市米沢埴原田）
千鹿頭神社（長野県諏訪郡富士見町横吹）
千鹿頭神社（長野県上伊那郡辰野町樋口）
近津神社（長野県佐久市長土呂本宮）
知方神社（長野県下伊那郡阿南町大字西条）
近戸神社（山梨県韮崎市清哲町）
近戸神社（山梨県甲府市高町）

関東地方

大胡神社（旧近戸神社）（群馬県前橋市河原浜町）
近戸神社（群馬県前橋市粕川町）
近戸神社（群馬県前橋市笂井町）
親都神社（群馬県吾妻郡中之条町）
千方神社（埼玉県加須市）
千勝社（埼玉県久喜市上早見）
千勝神社（埼玉県久喜市本町）
千勝神社（埼玉県久喜市吉羽）
千形神社（埼玉県熊谷市本町）
智賀都神社（栃木県宇都宮市徳次郎町）
智方神社（栃木県小山市武井）
血方神社（栃木県小山市田間）
近津神社（茨城県久慈郡大子町）
千勝神社（茨城県つくば市泊崎）

東北地方

都都古和氣神社(福島県東白川郡棚倉町棚倉)
都々古別神社(福島県東白川郡棚倉町八槻)
* 久来石神社（千勝神社）（福島県岩瀬郡鏡石町久来石）

まとめ

千鹿頭神は、東日本各地で多様な形で信仰されてきた神であり、その起源や祭祀についてはまだ解明されていない部分が多く残されています。狩猟の神として山岳地帯を移動した痕跡や、ミシャグジ信仰との関連性など、興味深い要素を多く含んでおり、今後の研究が期待されています。

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