今日までそして明日から (曽我部清典のアルバム)

『今日までそして明日から』は、現代音楽家でありトランペット奏者である曽我部清典の記念すべきファーストアルバムです。このアルバムは、曽我部氏が長年培ってきた音楽的探求の集大成とも言える内容で、現代音楽の最前線を走る作曲家たちの作品を収録しています。

アルバムには、近藤譲氏の『冬の間に』が収録されています。この楽曲は、1995年12月に作曲され、「現代形の音楽 95’」で曽我部氏、佐藤まどか氏、加藤昌則氏らによって初演されました。曽我部氏の「トランペットのための新しい室内楽曲を」という要望に応えて作曲されたこの曲は、現代音楽の複雑さと深みを表現しています。

伊左治直氏の『ファンファーリア』は、密室音響劇『血の婚礼』のために作曲されたものです。1996年1月に初演され、トランペットのソロと3人の伴奏者という明確な役割分担が特徴です。ソロパートは旋律を「紡ぐ」というより「流す」ような感覚を持ち、伴奏は曲の終盤を除いて不確定な要素を持っています。

西村朗氏の『ヘイロウス（光輪）』は、15世紀のオスマン帝国による聖像破壊の歴史に触発されて書かれた楽曲です。トランペットが奏でるビザンツ聖歌『恵み深いあなたの霊によって主よ、私を導き給え、ハレルヤ』は、大胆に変形され、異音や休止によって寸断されます。ピアノの奏でる「光輪」もまた、傷つけられた聖像のように、痛々しく響きます。

武満徹氏の『径』は、作曲家ルトスワフスキの死を悼んで書かれたファンファーレです。曽我部氏のコメントによれば、「単純な旋律的動機が庭園の小径のように、風景の微妙な変化の中を進んでいく」とのこと。また、武満氏は曽我部氏に対し「私たち作曲家はもっと旋律のことを真剣に考えるべきであり、新しい旋律を生むための努力を惜しむべきでない」と語ったそうです。武満氏の晩年の作品には、日本庭園の発想を取り入れたものが多く見られますが、この作品にも日本独自の空間概念が反映されていると曽我部氏は指摘しています。

アルバムには、これらの作品に加え、佐藤聡明氏の『光』、松尾祐孝氏の『ディストラクションIV～トランペットとピアノのために～』、中川俊郎氏の『唇，舌，歯，喉のためのエチュード～トランペット奏者とキーボード奏者の為の』も収録されています。これらの楽曲もまた、現代音楽の多様性と深みを示すものであり、曽我部氏の卓越した演奏技術と音楽的解釈によって、その魅力が最大限に引き出されています。

このアルバムは、曽我部清典氏の音楽家としての才能と、現代音楽の豊かな世界を堪能できる一枚です。スライドトランペット「Zephyros」の開発者としても知られる曽我部氏の、創造性豊かな音楽世界をぜひお楽しみください。

収録曲

1. 光（10'41）
作曲:佐藤聡明
中川俊郎（ピアノ）
2. ディストラクションIV～トランペットとピアノのために～（9'48）
作曲:松尾祐孝
中川俊郎（ピアノ）
3. 冬の間に（6'38）
作曲:近藤譲
中川俊郎（ピアノ）、野口千代光（ヴァイオリン）
4. ファンファーリア（6'25）
作曲:伊左治直
中川俊郎（ピアノ）
5. ヘイロウス（光輪）（12'18）
作曲:西村朗
中川俊郎（ピアノ）
6. 唇，舌，歯，喉のためのエチュード～トランペット奏者とキーボード奏者の為の（20'12）
作曲:中川俊郎
中川俊郎（ピアノ）
7. 径（5'29）
作曲:武満徹
中川俊郎（ピアノ）

外部リンク

曽我部清典オフィシャルサイト
曽我部清典CD一覧 コジマ録音
ALMレコード
firstCD レコーディング風景 - ウェイバックマシン（2004年8月12日アーカイブ分）

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