仏図戸

仏図戸（ぶっとこ）

仏図戸は、中国の北魏時代に創設された、寺院に隷属する人々に関する制度です。当時の宗教行政を管轄した昭玄曹（監福曹）の長官である沙門統の曇曜（どんよう）が始めました。寺戸とも呼ばれます。

沿革

仏図戸の起源は、承明元年（476年）頃に遡ります。勅許によって建立された仏教寺院が、官民から重罪を犯した奴婢を請い受け、寺院内の清掃などの雑役や、寺院が所有する荘園の耕作などに従事させたのが始まりです。

この制度が生まれる背景には、北魏の仏教政策の変遷があります。446年には、第3代太武帝が廃仏を断行し、仏教教団に弾圧を加えました。しかし、太武帝の崩御後、452年に文成帝が即位すると、復仏の詔が発せられ、急速に仏教の復興が進みました。

曇曜が復興後2代目の沙門統に任ぜられたのは、460年頃のことです。彼は、造寺や造像などの大規模な仏教復興事業を推進し、中でも巨大な雲崗石窟の開削造営は特筆されます。雲崗石窟の中でも、特に曇曜五窟と呼ばれる窟は、歴代の皇帝を模した大仏が安置され、国家的な北魏仏教の象徴的存在となりました。

このような大規模な仏教復興事業を推進するためには、安定した経済的基盤が不可欠です。そこで創設されたのが、仏図戸と僧祇戸（僧祇粟）の制度でした。平斉戸などを初めとする僧祇戸から得られた僧祇粟を原資として貧民に貸し付け、その利殖による財貨と、仏図戸の労働力が、これらの事業を支えました。

仏図戸となった者は、死刑囚や重罪犯、官の奴隷などでした。僧侶の監督の下で仏教教団に奉仕することは、自己の救済に繋がると教化され、中には自ら出家して僧となる者も現れました。仏図戸は、仏教を基本に置いた社会事業的な性格を持った制度だったと言えるでしょう。

僧祇戸とともに、仏図戸は、孝文帝時代の前後の北魏朝における篤心な仏教復興政策の一環として仏教側から献策されたものであり、農業の振興や生産の増強、民心安定のためにも作用しました。北魏末期には、都の洛陽を中心とした空前の教団の繁栄に大きく寄与しました。

しかし、その一方で、弊害も露見し始めました。仏図戸の制度は、寺院の大規模地主化を助長することとなり、この風潮は北朝のみにとどまらず、唐・宋代の寺院の大土地所有の源流となっていきました。

参考文献

塚本善隆「北魏の僧祇戸・仏図戸」（『支那仏教史研究』、1942年）
塚本善隆「沙門統曇曜とその時代」（同上）

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