仏足石歌

仏足石歌（ぶっそくせきか）とは

仏足石歌とは、奈良県にある薬師寺の仏足石歌碑に刻まれた21首の歌、およびそれと同じ形式を持つ和歌のことを指します。仏足石は仏の足跡を石に刻んだもので、仏足石歌は、その仏足石を讃える歌として作られました。

薬師寺の仏足石歌

薬師寺には、仏足石とともに仏足跡歌碑があり、そこには「恭仏跡」（仏徳をたたえたもの）17首、「呵責生死」（世の無常の道理を説いて仏道を勧めるもの）4首の仏教歌謡が、万葉仮名で刻まれています。

この仏足石は、天武天皇の孫である文屋智努（文室浄三、智努王）が、753年（天平勝宝5年）に亡き夫人（または母とも）の追善のために作ったとされています。仏足石歌もこの頃に作られたと考えられていますが、作者は明らかではありません。

仏足石歌の歌体はすべて五・七・五・七・七・七の6句からなり、6句目はその前の5句目を言い換えたものが多く、この歌体は結句を繰り返して歌う上代歌謡に起源をもつといわれています。歌碑に刻まれた文字を見ると、6句目はそれまでの文字よりも小さく刻まれているのが特徴です。

仏足石歌体

仏足石歌と同じ五・七・五・七・七・七の形式を持つ和歌は、仏足石歌体と呼ばれています。この歌体は、仏足跡歌碑のほかに、『古事記』『万葉集』『播磨国風土記』にそれぞれ1首ずつ見られます。

各歌集に見られる仏足石歌体

• - 古事記

意富岐美能 美古能志婆加岐 夜布士麻理 斯麻理母登本斯 岐礼牟志婆加岐 夜気牟志婆加岐

（大君の 御子の柴垣 八節絞り 絞り廻し 切れむ柴垣 焼けむ柴垣）

• - 万葉集

伊夜彦 神乃布本 今日良毛加 鹿乃伏良武 皮服著而 角附奈我良

（弥彦 神の麓に 今日らもか 鹿の伏すらむ 皮衣着て 角つきながら）

• - 播磨国風土記

宇都久志伎　乎米乃佐々波爾　阿良礼布理　志毛布留等毛　奈加礼曽祢　袁米乃佐々波

（うつくしき　小目の小竹葉に　霰降り　霜降るとも　な枯れそね　小目の小竹葉）


仏足石歌体は平安時代に入ると衰退しましたが、『拾遺和歌集』『千載和歌集』『躬恒集』に「旋頭歌」として載せられている歌には、仏足石歌体の形式を持つものがあります。ただし、これらの歌では末の2句が並列になっていないという違いがあります。

仏足石歌の例

以下に、仏足石に刻まれた歌の一例を示します。

1番歌

• - 万葉仮名（原文）

美阿止都久留　伊志乃比鼻伎波　阿米尓伊多利　都知佐閉由須礼　知々波々賀多米尓　毛呂比止乃多米尓

• - 平仮名置き換え

みあとつくる　いしのひびきは　あめにいたり　つちさへゆすれ　ちゝはゝがために　もろひとのために

• - 漢字混じり文（参考）

御足跡作る　石の響きは　天に至り　土さへ揺すれ　父母が為に　諸人の為に


17番歌

• - 万葉仮名（原文）

於保美阿止乎　美尓久留比止乃　伊尓志加多　知与乃都美佐閇　保呂歩止曽伊布　乃曽久止叙伎久

• - 平仮名置き換え

おほみあとを　みにくるひとの　いにしかた　ちよのつみさへ　ほろぶとぞいふ　のぞくとぞきく

• - 漢字混じり文（参考）

大御足跡を　見に来る人の　去にし方　千代の罪さへ　滅ぶとぞ言ふ　除くとぞ聞く


仏足石歌は、古代日本の歌謡文化を知る上で貴重な資料であり、仏教信仰と歌謡の結びつきを示す好例と言えるでしょう。

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