旋頭歌

旋頭歌（せどうか）

旋頭歌は、奈良時代に成立した和歌の一形式で、『古事記』、『日[[本書紀]]』、『万葉集』に作品が残されています。その特徴は、五七七の句を二度繰り返す六句構成である点です。旋頭歌の多くは、二人で掛け合いをする問答歌であり、上の三句と下の三句で詠み手の立場が異なることが一般的です。この形式は、頭句（第一句）を再び繰り返すように歌うことから、「旋頭歌」と呼ばれるようになりました。また、五七七の片歌を二人で唱和または問答したことが、旋頭歌の起源であると考えられています。

旋頭歌の成立と発展

国文学者の久松潜一は、旋頭歌の本質は問答形式で口誦されることにあると提唱しました。この説は多くの研究者によって支持されています。一方で、一人で詠作する形式の旋頭歌も存在し、これは柿本人麻呂によって創造されたという説が有力です。『万葉集』には62首の旋頭歌が収録されており、そのうち35首が「柿本人麻呂歌集」に由来します。しかし、『万葉集』以降、旋頭歌は急速に衰退し、『古今和歌集』をはじめとする勅撰[[和歌集]]にはほとんど見られなくなりました。

旋頭歌の例

『古事記』の例

『古事記』には、伊須氣余理比賣（いすけよりひめ）と大久米命（おほくめのみこと）との問答として、以下の旋頭歌が収録されています。

胡鷰子鶺鴒　千鳥ま鵐 など黥ける利目

あめつつ　ちどりましとと　などさけるとめ

媛女に　直に遇はむと　我が黥ける利目

おとめに　ただにあはむと　わがさけるとめ

この歌は、女性と男性が互いに言葉を交わし、それぞれの心情を表現したものです。

『万葉集』の例

『万葉集』には、以下のような旋頭歌が収められています。

問答形式の例

住吉（すみのえ）の　小田（おだ）を刈らす子　奴（やっこ）かもなき　奴あれど　妹（いも）がみために　私田（わたくしだ）刈る

この歌は、住吉の田で働く若い衆に対して、奴がいるのかと問いかけ、それに対し、愛する女性のために私田を刈っていると答える問答形式の旋頭歌です。

問答形式ではない例

霰（あられ）降り　遠江（とほつあふみ）の　吾跡川（あとかわ）柳　刈れども　またも生ふという　吾跡川（あとかわ）柳

この歌は、遠江の吾跡川の柳を題材にした歌で、刈ってもまた生える柳の生命力を詠んでいます。

隠喩を用いた例

み幣（ぬさ）取り三輪の祝（はふり）が斎（いわ）ふ杉原　薪（たきぎ）伐（こ）りほとほとしくに手斧（ておの）取らえぬ

この歌は、三輪山の杉原を女性に、その祝の神官を女性の親に隠喩したとされる旋頭歌です。三輪の神官が守る杉原を、薪を伐る者が危うく手斧を奪われそうになる様子を詠んでいます。

旋頭歌の衰退と影響

旋頭歌は、『万葉集』以降、急速に衰退しましたが、その形式は、後の和歌や文学作品に影響を与えました。芥川龍之介は、連作旋頭歌『越し人』を制作しています。

関連項目

長歌
短歌
片歌
仏足石歌
芥川龍之介

参考文献

稲岡耕二「人麻呂歌集旋頭歌の文学的意義」『万葉・その後』、塙書房、1977年。56-85頁。
倉野憲司校注 『古事記』、岩波書店〈岩波文庫〉、ワイド版、1991年。ISBN 4000070487。
伊藤博 『万葉集釋注 四』、集英社〈集英社文庫 ヘリテージシリーズ〉、集英社版、2005年（初出1996年）。ISBN 4087610136。

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