仙寿院 (渋谷区)

渋谷区千駄ヶ谷 仙寿院

東京都渋谷区千駄ヶ谷にある日蓮宗の寺院、法雲山仙寿院東漸寺。その旧本山は大野山本遠寺であり、通師・千駄ヶ谷法縁の縁頭寺という位置づけにあります。

徳川家康側室ゆかりの古刹

仙寿院の創建は、江戸幕府を開いた徳川家康の側室、養珠院（お万の方）と深い関係があります。その起源は、養珠院が赤坂の紀州徳川家屋敷内に建立した草庵に遡ります。正保元年（1664年）、養珠院の実子である紀州徳川家初代当主、徳川頼宣公によって現在の千駄ヶ谷の地へ移されました。境内には、石段を上り詰めた本堂前に、今も養珠院公の徳を偲ばせる石碑が建ち、歴史を伝えています。

江戸の景勝地「新日暮里」

江戸時代、この千駄ヶ谷一帯は、その地形や寺院を取り巻く林泉の趣が、当時有名な景勝地であった谷中の日暮里によく似ていたことから、「新日暮里（しんひぐらしのさと）」と呼ばれ、多くの人々に親しまれました。その美しさは、『江戸名所図会』や歌川広重の浮世絵にも描かれ、広く知られていました。特に、仙寿院周辺は桜の名所として名高く、春には遠方からも花見客が集まり、酒や団子、田楽などを売る露店が出て大変な賑わいを見せたと伝えられています。『江戸名所図会』には、「この辺りの風情は谷中の日暮里に似て美しく、仮に新日暮里と呼ばれ、春の桜の盛りには大勢の人々が集まった」と記されています。

現代の変遷と新たな景観

かつて自然豊かな景勝地であったこの地も、時代の変化とともに大きく姿を変えました。明治28年（1895年）の東京実測図では、渋谷川東の台地の上に位置し、流域の水田や代々木の森を見渡せる様子が描かれています。しかし、現代の都市開発や渋谷川の暗渠化により、往時の自然は失われました。また、1964年の東京オリンピック開催時には、近隣の国立競技場へのアクセス道路整備に伴い、高台にある仙寿院の墓地の下を貫通する形で都道が建設されました（現在の千駄ヶ谷トンネル）。この墓地下を道路が通る工事は、当時話題となりました。

現在の仙寿院は、東京都千駄ヶ谷二丁目24-1に位置し、周辺を通る都道418号線（通称：外苑西通り）と補助24号線の交差点は「仙寿院交差点」として地域に定着しています。

参道下の人気店「お仲だんご」

仙寿院の歴史に彩りを添えるエピソードとして、かつて参道下、現在のビクタースタジオ付近にあった「お仲だんご」という団子屋があります。江戸時代から明治元年まで営業し、『江戸名所図会』や歌川広重の浮世絵にも描かれたこの店は、美人で評判の店主「お仲」さんと、竹の皮で包まれた「古代餅」で人気を博しました。渋谷の金王八幡宮には、お仲さんが奉納した額が残されており、地域における彼女の存在感を示しています。

仙寿院は、徳川家との由緒ある繋がり、「新日暮里」と呼ばれた美しい景観、そして人々に愛された「お仲だんご」の物語など、渋谷区千駄ヶ谷に残る貴重な歴史の証人と言えるでしょう。

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