代謝異常

代謝異常

代謝異常（たいしゃいじょう、英語: metabolic disorder）とは、生命維持に必要な栄養素、すなわちタンパク質、脂質、炭水化物などが、体内で適切に分解されたり、合成されたり、必要な場所へ運ばれたりする一連の生化学的プロセスに支障が生じる状態を指します。「代謝障害」と呼ばれることもあります。

この異常は、細胞内で起こる複雑な化学反応の経路が本来とは異なる方向に進んでしまったり、あるいは遺伝的な要因によって代謝に関わる特定の酵素やタンパク質が不足したり機能しなくなったりすることで発生します。特に遺伝的な原因によるものは、単一の遺伝子に欠陥があることで引き起こされる「単一遺伝子疾患」として捉えられることが多く、両親から遺伝子を受け継ぐ常染色体劣性遺伝の形式をとるケースが多数を占めます。

主な症状

代謝異常の種類は多岐にわたるため、現れる症状も様々です。しかし、一般的な兆候としては、全身のけだるさや無気力、原因不明の体重減少、皮膚や白目が黄色くなる黄疸（おうだん）、そしててんかんのような発作などが挙げられます。症状の発現様式も異なり、突然重篤な状態になる「急性症状」、生後しばらくしてから現れる「遅発性急性症状」、全身状態が徐々に悪化する「進行性全身症状」、そして生涯にわたる影響をもたらす「永続性症状」といったタイプに分類されることがあります。

原因

代謝異常の主要な原因の一つは、遺伝子の異常です。特定の遺伝子に欠陥があることで、代謝経路に必要な酵素が十分量作られない、あるいは機能しない状態、つまり「酵素欠損症」が生じ、これが代謝異常を引き起こします。特に生まれつき遺伝的な異常を持つものを「先天性代謝異常症」と呼び、これには非常に多くの種類が存在します。

遺伝的な要因に加え、代謝の中心的な役割を担う臓器の機能障害も原因となります。例えば、栄養素の貯蔵や分解、解毒などを行う肝臓や、血糖値を調節するホルモンを分泌する膵臓といった臓器が正常に機能しない場合にも、代謝プロセスに乱れが生じ、代謝異常が発生することがあります。

また、近年の研究では、人間の腸内に生息する微生物の集合体である「腸内細菌叢」が、宿主である人間の代謝活動に深く関わっていることが分かっています。腸内細菌叢は、消化吸収を助けるだけでなく、代謝産物を生成するなど、様々な形で宿主である人間の代謝活動に関与しています。腸内細菌叢のバランスが崩れることが、肥満をはじめとする代謝異常と関連する可能性が指摘されており、研究が進められています。

種類

代謝異常は、関わる代謝経路や物質の種類によって多様なカテゴリーに分けられます。主なクラスとしては以下のようなものが挙げられます。

酸塩基平衡異常
代謝性脳疾患
カルシウム代謝障害
DNA修復不全症
糖代謝異常
高乳酸血症
鉄代謝障害
脂質代謝障害
吸収不良症候群
メタボリックシンドローム
先天性代謝異常症
ミトコンドリア病
リン代謝異常
ポルフィリン症
タンパク質恒常性の欠損症
代謝性皮膚疾患
消耗症候群
電解質異常

診断

代謝異常の中には、生まれた時点で既に存在しているケースが多くあります。これらの多くは、新生児期に実施される公的なスクリーニング検査（ふるい分け検査）によって早期に発見することが可能です。これにより、症状が現れる前に診断し、速やかに治療を開始することができます。

一方、新生児スクリーニングでは特定されない、あるいは軽度で症状が目立たない場合など、成長してから病状が進行したり、特定の症状が現れたりすることで診断に至るケースもあります。代謝異常が疑われる場合、確定診断のためには、血液や尿、時には組織を用いた生化学的な検査や、原因となる遺伝子を調べるDNA検査などが実施されます。

前述のように、腸内細菌叢の異常も代謝異常との関連が示唆されており、診断や病態理解において腸内細菌叢の解析が今後重要になる可能性も考えられます。

スクリーニング

新生児を対象とした代謝異常のスクリーニング検査は、早期発見と早期治療による予後改善を目指して行われます。一般的な方法としては、生後数日以内に採取した少量の血液（多くはかかとからの採血）を用いた生化学的な検査が中心です。一部の代謝異常によっては、皮膚の反応を見るテストや、聴覚検査などが併せて行われる場合もあります。

管理（治療）

代謝異常の治療法は、その具体的な種類や重症度によって大きく異なります。しかし、多くの代謝異常、特に先天性の代謝異常症においては、食事内容を厳密に管理する「栄養管理」が治療の根幹となります。特定の栄養素を制限したり、不足している代謝産物を補充したり、あるいは特殊な栄養剤を使用したりします。

効果的な栄養管理を行うためには、患者さんの遺伝子型に基づいた、病気の特性を深く理解した個別対応が不可欠です。そのため、専門的な知識と経験を持つ医師や管理栄養士による継続的なサポートが非常に重要となります。

関連疾患

代謝異常に関連する病態として、メタボリックシンドローム（内臓脂肪型肥満に加え、高血糖、高血圧、脂質異常症のうち複数を合併した状態）や、ライソゾーム病（細胞内の小器官であるライソゾームの機能不全により、特定の物質が蓄積する稀な遺伝性代謝疾患群）などがあります。これらは広義には代謝の異常に関連する病態として位置づけられます。

欠乏性疾患（特定の栄養素の不足や過剰による病気）や、代謝亢進（安静時のエネルギー消費量が異常に高い状態）なども、代謝に関連する概念です。

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