以酊庵

以酊庵とは

以酊庵（いていあん）は、長崎県対馬市に位置する歴史的な寺院で、かつて外交の重要な拠点としての役割を果たしていました。この寺院は、山号を瞎驢山（かつろざん）とし、禅僧の教育や外交活動が行われていた場所です。

史的背景

日本と隣国である中国、朝鮮との外交において、漢詩文を修得し、漢文に優れた禅僧が重要な役割を持っていました。天正8年（1580年）、対馬の戦国大名である宗義調の依頼によって、景轍玄蘇が招かれ、朝鮮との外交を担当しました。その後、文禄・慶長の役では豊臣秀吉の指示のもと、明との交渉に従事しました。

寺院の設立

玄蘇が対馬にて新たに設立した以酊庵は、彼の生誕年である天文6年（1537年）の丁酉にちなんで名付けられました。寺院の位置は、対馬天道茂（現・幹原町）にあり、外交活動における拠点として機能していました。以酊庵は、1635年の柳川一件で流罪となった規伯玄方の後を継いだことでも知られています。

以酊庵輪番制の成立

以酊庵は、外交文書の作成や朝鮮通信使の接遇を担う存在として重要視されましたが、対朝鮮外交を支える人材が不足してしまいます。これを受けて江戸幕府は、東福寺の玉峰光璘を派遣し、以酊庵で外交文書作成を継続しました。この仕組みは「以酊庵輪番制」と呼ばれ、以後、特に教育を受けた禅僧たちによる外交文書の管理が行われることになりました。

朝鮮修文職は、幕府によって任命される外交機関の一形式と位置づけられ、役職者は京都の五山の中でも名高い寺院に戻って住持としての職務を担いました。

変遷と廃寺

江戸幕府の再編成により、慶応2年（1866年）には以酊庵輪番制の廃止が通告されました。それに伴い、翌年には玉澗守俊が東福寺に帰還し、明治政府の誕生とともに対朝鮮外交権も剥奪されました。この結果、無住となった以酊庵は明治元年（1868年）に廃寺となり、その後、復帰した西山寺が役割を引き継ぎました。

寺院の遺物や歴史的資料は、現在、西山寺に保存されています。以酊庵は、このように日本の近世外交の一端を担った重要な場所として位置付けられています。

参考文献

• - 『厳原町史』厳原町誌編集委員会、1997年
• - 田中健夫『前近代の国際交流と外交文書』吉川弘文館、1996年
• - 北島万次「以酊庵」『日本史大事典 1』平凡社、1992年
• - 今枝愛真「以酊庵」『対外関係史辞典』吉川弘文館、2009年

このような歴史を経て、以酊庵は日本の外交史の中で特に重要な位置を占める寺院となりました。

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