仲直りはしたものの

『仲直りはしたものの』（1966年）は、人気アニメシリーズ『トムとジェリー』の短編作品の一つです。監督はチャック・ジョーンズですが、クレジットはハンナ＝バーベラとなっています。この作品最大の特徴は、トムとジェリーが過去のハンナ＝バーベラ制作の『トムとジェリー』作品を鑑賞するという、メタフィクション的な構成を採用している点でしょう。

物語は、いつものようにトムとジェリーが激しい追いかけっこを繰り広げるシーンから始まります。この導入部分も、過去の作品からの流用です。激しい争いの末、二匹は突如として仲直りを決意します。そして、二匹は映画館へと向かいます。

上映されていたのは、何と彼ら自身のドタバタ劇をまとめた映画『トムとジェリー』でした。トムとジェリーは仲良く映画に見入りますが、過去の自分たちが痛めつけられているシーンに遭遇すると、たちまち笑いが怒りに変わり、再び喧嘩を始めてしまいます。

この映画の中での喧嘩シーンには、スパイクや魔女といった、ハンナ＝バーベラ期の作品でお馴染みのキャラクターも登場します。興味深いのは、映画の中のトムとジェリーが喧嘩している一方で、現実世界のトムとジェリーも映画館で喧嘩をしており、映画の中のスパイクが、現実世界のトムとジェリー、そして映画の中のトムとジェリーを一緒に眺めているという、なんとも皮肉めいたラストシーンです。

本作で使用されている過去の作品には、『ここまでおいで』『トム君空を飛ぶ』『やんちゃな生徒』『恐怖の白ネズミ』『逃げて来たライオン』など、おなじみのエピソードが数多く含まれています。これらのシーンは、巧みに再編集され、新たな物語に組み込まれています。新規に描かれたシーンでは、ハンナ＝バーベラ期のデザインを踏襲しつつ、過去の作品とは異なる、より洗練された作風が感じられます。また、音声は全て新規に収録されており、新鮮な印象を与えています。

登場キャラクターは、トムとジェリーに加え、スパイク、魔女、カナリア、そして映画館の係員などがいます。特にスパイクは、ハンナ＝バーベラ期のサブキャラクターの中で唯一、新規に描き下ろされたキャラクターです。映画館の係員は、トムとジェリーが仲良くしているのを見て、ポスターの喧嘩しているトムとジェリーとは別人だと勘違いする、コミカルなシーンを演出しています。

本作は、過去の作品を巧みに再利用しつつ、新たな物語を生み出した、実験的な作品と言えるでしょう。ハンナ＝バーベラ期の作品群へのオマージュと、チャック・ジョーンズ監督による独特の演出が見事に融合した、傑作短編アニメーションとして高く評価されています。過去作品からの引用や再編集だけでなく、新規に書き下ろされたシーンも自然に溶け込んでおり、全体として統一感のある作品に仕上がっています。

日本では、1964年から1990年頃にかけて、TBS系列を中心にテレビ放送され、DVDにも収録されています。『必殺ネズミ取り』など、他のチャック・ジョーンズ監督作品と同様に、ハンナ＝バーベラ期の『トムとジェリー』作品を多く引用しており、これらの作品群を理解している鑑賞者にとって、より深い楽しみ方ができるでしょう。また、劇中に登場するドルーピーのポスターなど、細部にもこだわりが感じられる作品です。

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