伊藤子元

伊藤子元（いとう しげん）

伊藤子元（1771年 - 1847年）は、江戸時代に活躍した囲碁棋士です。美濃国（現在の岐阜県）に生まれ、本因坊烈元の門下で腕を磨き、五段の棋力に達しました。本名は峰三郎、諱は茂辰、白翁と号しました。

生涯

子元は幼い頃から囲碁に親しみ、江戸に出て本因坊烈元の内弟子となりました。修行のかたわら、関西や九州を遊歴し、薩摩に滞在した際には、琉球の碁士である上江州と対局し、勝利を収めて名を上げました。享和年間（1801年～1804年）頃から名古屋に居を構え、文政年間（1818年～1830年）に三段に昇段しました。

1808年（文政5年）には、名古屋において本因坊丈和と二子で対局し、引き分けとなりました。この対局後、丈和は「もし峰三郎に手落ちがなければ黒の一目勝ちになる碁であった」と述べました。子元がそれを請うと、丈和は一目勝ちとして認めたという逸話が残っており、この出来事は『国技観光』にも掲載されています。

子元は後進の育成にも力を注ぎ、伊藤松次郎（後の伊藤松和）と加藤隆次郎（後の加藤隆和）を門下生として育てました。松次郎は1812年（文化9年）に本因坊元丈の門下へ、隆次郎は後に丈和の門下へとそれぞれ送り出しています。弘化年間から安政年間にかけては、30名以上の有段者を育成しました。1846年（弘化3年）に編纂された『大日本囲碁姓名録』には、五段の棋士としてその名が記されています。

また、烈元の内弟子修行中の1789年（寛政元年）には、烈元と河野元虎との間で御城碁が行われましたが、この碁が引き分けに終わった際、尾張藩に仕える服部大蔵という人物が「白の一目勝ちである」と指摘したとされ、尾張藩の関係者から子元に問い合わせの手紙が届いたという逸話が、林元美の記録に残っています。

晩年は、卓州禅師に参禅するなど、悠々自適の生活を送りました。1847年（弘化4年）に名古屋の自宅で亡くなり、桑名の大林寺に埋葬されました。1848年（嘉永元年）には、門下生の松和と隆和によって墓碑が建立され、澤田眉山による碑銘が刻まれました。

墓碑には以下の銘が刻まれています。

「於乎白翁 知白守黒 局上對陣 神機不測 既耽生隠 又受逃禪 奕品五級 榮名千年」

参考文献

安藤如意、渡辺英夫『坐隠談叢』新樹社 1955年
相場一宏、福井正明『碁界黄金の十九世紀-江戸後期から明治‐日本の碁を頂点に導いた名手たち』日本棋院 2007年

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