本因坊丈和

本因坊丈和（ほんいんぼうじょうわ）は、江戸時代後期の棋士で、十二世本因坊、名人碁所です。天明7年（1787年）に生まれ、弘化4年10月10日（1847年 11月17日）に亡くなりました。法名は日竟、本因坊元丈門下で、元の姓は戸谷、後に葛野を名乗りました。

生涯

丈和の生地は明確ではありませんが、伊豆説が有力とされています。幼名は松之助。16歳で初段となり、文化4年(1807年)には庄内藩士長坂猪之助と二十一番碁を打ち、先相先で勝利を収めました。当時、元丈の後継者には奥貫智策がいましたが、智策が夭逝したため、文政2年(1819年)に丈和が跡目となりました。その後、33歳で六段に昇進しました。

文政10年(1827年)、40歳の時に七段に進み、元丈の跡を継いで十二世本因坊丈和となります。翌年には八段に昇進。天保2年(1831年)には、ライバルの井上幻庵因碩を策謀によって退け、名人碁所に就任しました。この名人碁所就任には、様々な陰謀があったとされています。

丈和の長男である戸谷梅太郎は、水谷琢順の養子となった後に井上家を継ぎ、12世井上節山因碩となりました。三男は明治期の方円社2代目社長の中川亀三郎、長女は本因坊秀策に嫁ぎました。

天保の内訌と松平家碁会

丈和が名人碁所に就任する際、不透明な陰謀があったとされ、その後の禍根となりました。当時、名人碁所になった棋士は公式の対局を行わないとされていましたが、実際には、丈和以前の碁所就任者でも御城碁を打っていた例がありました。

文政11年(1828年)に丈和は名人碁所願を提出しましたが、安井知得仙知は時期尚早と主張し、井上幻庵因碩との争碁を勧めました。しかし因碩は争碁を拒否し、仙知が争碁を行うことになりました。しかし、仙知の病気などで日程が決まらず、因碩が争碁願を提出するも、最終的には丈和が名人碁所に任命されました。この突然の任命には、林元美が丈和から八段昇段の約束を得て、水戸藩の隠居を通じて寺社奉行に働きかけたという説があります。

天保6年(1835年)には、浜田藩の家老であった岡田頼母が、老中松平周防守に碁会を勧め、松平宅にて丈和も参加する手合が組まれました。この碁会で、因碩は丈和を名人位から引き摺り下ろそうと、弟子の赤星因徹を丈和に挑ませました。赤星の実力は確かでしたが、丈和は有名な「丈和の三妙手」を放ち、赤星を打ち破りました。この対局中に赤星は血を吐き、その後亡くなったため、この一局は「吐血の局」として知られています。この結果、因碩の野望は砕かれましたが、林元美との約束を破ったことなどから、丈和は天保10年(1839年)に碁所を返上して引退しました。

丈和の三妙手

「丈和の三妙手」は、赤星因徹との対局中に生まれた、丈和の卓越した棋力を示す3つの手筋のことです。右辺で黒が形を決めに来た際に、白が内側から滑ったのが「第一の妙手」、さらに先手で右下を間に合わせたのが「第二の妙手」、そして、左辺への打ち込みから、形の悪い白石を力強く打ち込んだのが「第三の妙手」です。これらの手筋により、丈和は劣勢を挽回し、見事勝利を収めました。

出自

丈和の出自については、自身が明かすことはありませんでした。公儀に提出した親類書では武州本庄の戸谷姓とされていますが、詳細な出自は不明です。大沢永弘の研究では、伊豆の五十集商の次男として生まれ、江戸で烈元門下になった後、本庄に丁稚奉公に出されたとされています。その後、江戸に戻り、戸谷家の支援を受けて棋士としての道を歩み始めたとされています。

評価

丈和の碁は「強力無双」と称される、激しい力碁が特徴です。道策が「前聖」と呼ばれるのに対し、丈和は「後聖」と呼ばれました。一時期、名人就任に関する醜聞で評価が低下しましたが、現在ではその実力が再評価され、囲碁の三棋聖の一人、そして史上最強棋士候補の一人として確固たる地位を得ています。

著作

- 『国技観光』1826年
- 『收枰精思』1835年

脚注

- 『本因坊丈和全集』（全三巻）誠文堂新光社　1957年
- 『丈和』（日本囲碁大系10、解説：藤沢秀行）筑摩書房
- 大沢永弘『本因坊丈和出自考』西光山自性院 1984年
- 高木祥一『剛腕丈和 (囲碁古典名局選集) 』日本棋院　1991年
- 相場一宏、福井正明「碁界黄金の十九世紀（第8回）」（「碁ワールド」誌 2003年3月号）
- 福井正明『名人・名局選丈和』誠文堂新光社　2009年

もう一度検索

本因坊丈和