伸上り

伸上り（のびあがり）

概要

伸上り、あるいは伸上り入道と呼ばれる妖怪は、日本全土にその伝説が広がっており、愛媛県北宇和郡下波村（現・宇和島市）や徳島県の祖谷地方で特に有名です。この妖怪は、目の前に現れると徐々に背が高くなり、視線を向けることでその高さが増していきます。

愛媛の東宇和郡宇和町（現・西予市）の伝説によれば、伸上りは見上げている人の喉元に噛みつくこともあると言われています。また香川県の folklore では、その存在が首を締めつけたり、攻撃的に倒れかかってくるとも伝わります。徳島の祖谷地方においては、竹薮の中に1尺（約30センチ）ほどの存在で現れ、次第に竹の高さまで成長するという話があります。

昭和や平成の時代に発表された多くの妖怪に関連する文献では、伸上りは「見越入道」の一種とされ、同様の特徴を持つ妖怪として位置づけられています。さらに、愛媛の下波村では、地面から約30センチの高さを蹴飛ばして視線を外すことで、伸上りは消えるとも言われています。南宇和郡内海村（現・愛南町）では「見越した」と声をかけることで姿を消すことができるとされています。

外見と目撃情報

伸上りの外見は影のようにあまりはっきりしていないとされますが、一部の伝承では丸く、奇妙な石のような姿であるとも言われています。昭和以降の事例として挙げられるのが、1988年の神奈川県での目撃情報です。この時、友人たちを乗せた車が広沢寺温泉のトンネルに入った際、脇道から煙のようなものが立ち上がり、その形が人間の形になったと報告されています。その中の一人は、これを伸上りと判断しました。

また、伸上りや高入道の仲間として「星ちぎり」という妖怪も知られています。これは、高知県物部村山崎（現・香美市）に現れ、見ている間に背が伸びるという特性を持ちます。「星ちぎり」は幻とも言われ、同行者には見えないことが多いのが特徴です。

正体

伸上りの正体については、地域によって様々な説がありますが、特に獣が化けたものであるとする意見が多いです。愛媛では、カワウソが伸上りの姿に変身するという話があり、地域の民話の中ではカワウソを「ノビアガリ」と呼び、見せかけの大入道として人々を驚かせたり、肩車をして高くなる姿を見せるという伝承も存在します。カワウソは後脚で直立する習性を持つため、その直立する姿がこの妖怪の根源になったという説も支持されています。

参考文献

• - 大藤時彦他 著、民俗学研究所 編『綜合日本民俗語彙』 第3巻、平凡社、1955年。
• - 佐々木正興「伊予の妖怪変化」『伊予の民俗』第37号、1985年。
• - 武田明 著「祖谷山民俗誌」、池田彌三郎他 編『日本民俗誌大系』 第3巻、角川書店、1974年。
• - 多田克己『幻想世界の住人たち』 IV、新紀元社〈Truth In Fantasy〉、1990年。

関連項目

• - 日本の妖怪一覧

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