住宅顕信

住宅 顕信

住宅 顕信（すみたく けんしん、本名：住宅 春美、1961年3月21日 - 1987年2月7日）は、二十五歳という短い生涯を駆け抜けた日本の俳人です。病と向き合いながら詠んだ自由律俳句は、没後多くの人々に感銘を与えました。

生涯

顕信は1961年、岡山県岡山市に生を受けました。岡山市立石井中学校を卒業後、1976年4月には岡山市内の下田学園調理師学校に入学。同時に就職もしており、昼間は働き、夜は学校に通うという生活を送りました。この頃、四歳年上の女性と出会い、共に暮らすようになります。また、詩や宗教書、哲学書といった書籍に深く親しむようになりました。

1978年3月に下田学園を卒業。その後、1980年には父親が勤務していた岡山市役所に臨時職員として採用され、清掃業務に携わりました。

次第に仏教思想に深く惹かれるようになった顕信は、1982年9月からは中央仏教学院の通信教育課程で学び始めます。翌年、西本願寺にて得度し、浄土真宗本願寺派の僧侶となりました。この時授けられた法名は「釋顕信」です。同年10月には、長年連れ添った相手と正式に夫婦となりました。両親の支援を受けて自宅の一部を改修し仏間を設けることになり、浄土教の根本経典である「無量寿経」にちなんで、そこを「無量寿庵」と名付けました。

しかし、幸福な日々は長くは続きませんでした。1984年2月、急性骨髄性白血病を発病し、岡山市立市民病院に入院することとなります。病と闘う最中の同年6月には、長男が誕生しました。しかし、不治の病との診断を受けた夫に対し、妻の実家の意向により離婚に至りました。顕信は生まれたばかりの長男を引き取り、病院の病室で子育てをすることになります。

病床での壮絶な生活の中で、顕信は自由律俳句の世界に触れ、次第に傾倒していきます。同年10月には自由律俳句雑誌「層雲」の誌友となり、層雲社事務室の池田実吉氏に師事し、指導を受けました。特に自由律俳句の先駆者である尾崎放哉に深く心酔し、病床にて本格的に句作に励むようになります。

1985年には句集『試作帳』を自費出版しました。しかし、「層雲」の運営に権威主義的な傾向を感じ始め、発表の場を移すことを考えます。「層雲」の元編集者である藤本一幸氏が新たに主宰する自由律俳句誌「海市」へ参加し、翌1986年には「海市」の編集同人として活動に関わるようになります。

病状はさらに悪化し、この年の12月以降は自らの手で筆を持つことが難しくなり、代筆によってのみ句を発表できる状態となりました。そして、1987年2月7日午後11時23分、短い生涯を閉じました（浄土真宗においては「往生」とされる）。享年二十五歳。

俳人として活動した期間はわずか三年という短さでしたが、生涯で二百八十一句の俳句を残しました。

没後

顕信の死後、句友であり岡山大学教授であった池畑秀一氏らの尽力によって、遺された句をまとめた句集『未完成』（彌生書房）が1988年に刊行されました。この句集は多くの読者に感銘を与え、顕信の名は広く知られるようになりました。

顕信の波乱に満ちた生涯は、2019年6月に公開された伝記映画『ずぶぬれて犬ころ』として映像化され、本田孝義氏が監督を務め、木口健太氏が顕信役を演じました。

著書

『未完成 句集』彌生書房 1988年
『ずぶぬれて犬ころ』中央公論新社 2002年
『住宅顕信全俳句集全実像 夜が淋しくて誰かが笑いはじめた』池畑秀一監修 小学館 2003年
『住宅顕信句集 「未完成 」』春陽堂書店 2003年

関連図書

辻仁成, 小林恭二, 石井聰亙, 香山リカ, 長嶋有, 友川カズキ『住宅顕信読本 ― 若さとはこんな淋しい春なのか』中央公論新社 2002年
香山リカ『いつかまた会える ― 顕信: 人生を駆け抜けた詩人』中央公論新社 2002年
* 横田賢一『生きいそぎの俳人 住宅顕信 25歳の終止符』七つ森書館 2007年

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