佐伯旭

佐伯旭：シャープを世界企業へと導いた「第二の創業者」

佐伯旭（さえき あきら、1917年3月8日 - 2010年2月1日）は、シャープの二代目社長であり、その経営手腕によって同社を「第二の創業者」とも称されるまでに成長させた実業家です。広島県出身の佐伯は、1931年に早川金属工業研究所（後のシャープ）に入社し、経理の夜学に通いながら1933年に大阪経理専門学校を卒業しました。

倒産の危機を救った労使交渉

第二次世界大戦後の混乱期、シャープは業績悪化という最大の危機に直面しました。当時、社長であった早川徳次が人員整理を検討する中、佐伯は労使交渉にあたり、企業の存続に尽力しました。この功績が、後のシャープの成長に大きく貢献することになります。

若き専務から社長へ

佐伯は、1947年に取締役に就任し、その後常務取締役を経て、1959年には42歳という若さで専務取締役に就任しました。創業者の早川徳次から経営を任され、実質的な社長としてシャープを率いることになります。1970年には正式に社長に就任し、以降27年間、陣頭指揮を執り続けました。

技術開発への情熱

専務取締役時代の1960年、佐伯は若手技術者からの直訴を受け、液晶や半導体の研究者55人を集結させ、全社横断の開発チームを発足させました。翌1961年には大阪・阿倍野に中央研究所を建設し、450人の技術者を集約。ここで、コンピュータ、半導体、超短波の研究が推進されました。これらの研究は、国産初の電子レンジ発売、シリコン太陽電池の量産、世界初のトランジスタ式電卓開発、液晶実用化、日本語ワードプロセッサーなどの画期的な製品を生み出す原動力となりました。

「千里から天理へ」の決断

1969年、佐伯はアポロ計画でNASAにLSIを供給していたノースウエスタン社の工場で、半導体の塊であるアポロの宇宙カプセルを目撃し、その将来性を確信しました。当時、シャープは1970年の大阪万博への出展を検討していましたが、佐伯は万博への出展よりも、自社での半導体開発を優先すべきと考えました。結果、万博出展の資金を半導体工場建設にあてるという「千里から天理へ」の決断を下しました。この決断は、産業界の伝説として語り継がれています。この時、創業者である早川徳次は代表権のない会長職に退き、佐伯が二代目社長に就任することになります。

シャープブランドの確立と総合エレクトロニクスメーカーへの転換

佐伯は、早い段階から世界を見据え、社名を「シャープ」に変更。ブランド名の統一を成し遂げ、シャープを総合エレクトロニクスメーカーへと成長させました。半導体を核とした技術開発、継続的な差別化商品の開発、新しい販売戦略、財務体制の立て直し、海外での生産など、積極的な経営戦略が成功し、電卓、ラジカセ、ビデオ、複写機などが国際市場でヒットしました。

緊急プロジェクト（緊プロ）制の導入

佐伯は、1974年に社内に緊急プロジェクト（緊プロ）制を導入しました。これは、各事業部から出される開発テーマの中から、特に重要なものを選び出し、全社横断的なチームを編成して開発にあたる制度です。この制度は、シャープの開発力を飛躍的に高め、「技術のシャープ」という評価を確立する原動力となりました。

驚異的な成長と退任

佐伯のリーダーシップのもと、シャープは1975年から1985年までの10年間で売上高を約5倍、経常利益を18倍にするという驚異的な成長を遂げました。1987年には年商1兆円を突破し、佐伯は社長の座を辻晴雄に譲り、会長に退任。その後、相談役、最高顧問を務めました。生涯を通じて財界活動に関わることはありませんでした。

郷里への貢献

佐伯は、郷里である広島県にも貢献しており、東広島市に音響工場を、福山市に半導体工場の進出を決定しました。

死去と親族

佐伯旭は、2010年2月1日に慢性腎不全のため92歳で亡くなりました。佐伯の後任である第3代社長・辻晴雄の弟、及び第4代社長・町田勝彦は佐伯の女婿にあたります。また、孫にはマネーフォワード社長の辻庸介がいます。

佐伯旭は、シャープを世界的な企業へと成長させた、日本の高度経済成長期を代表する経営者の一人と言えるでしょう。

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