佐奈田義忠

佐奈田義忠（さなだ よしただ）は、平安時代末期に相模国大住郡、現在の神奈川県平塚市真田に拠点を置いた武将です。岡崎義実の嫡男であり、真田義忠、岡崎義忠とも呼ばれました。また、諱を義貞とする文献も存在します。名字については、佐那田と表記されることもあります。

生涯

久寿2年（1155年）に岡崎義実の子として誕生しました。父の義実は三浦義明の弟で、相模国大住郡岡崎に住し、岡崎氏を称しました。義忠は、岡崎の西方の真田（佐奈田）の地（平塚市真田）を領地としました。

治承4年（1180年）8月17日、父・義実とともに源頼朝の挙兵に参じ、山木兼隆館襲撃に加わります。その後、同年8月23日には、頼朝軍300余騎と大庭景親率いる平家方3000余騎が相模国石橋山で激突しました。この石橋山の戦いにおける佐奈田義忠の奮戦は、『平家物語』や『源平盛衰記』に詳細に記されています。

父・義実の推薦により、頼朝は武勇に優れた義忠に「大庭景親と俣野景久の二人と組んで、源氏の功名を立てよ」と先陣を命じました。義忠は討ち死にを覚悟し、57歳になる老いた郎党の文三家安に母と妻子の後事を託そうとしますが、家安は義忠が2歳の頃から親代わりとして育てたのだから、共に討ち死にすると言い張り、義忠もこれを許しました。

頼朝は、義忠の装束が派手で目立ちすぎるとして着替えるよう助言しましたが、義忠は「弓矢を取る身の晴れの場であり、戦場に過ぎたることはない」と言い、白葦毛の名馬に跨り、15騎を率いて進み出て名乗りを上げました。大庭勢は義忠を好敵手と見て、大庭景親、俣野景久、長尾新五、新六ら73騎が襲いかかりました。

夜間、大雨の中で行われたこの戦いは、敵味方の区別もつかない乱戦となりました。義忠は郎党の文三家安に、大庭景親か俣野景久と組み合うつもりであるから、組み合ったならば直ちに助けよと命じました。すると、敵の一騎が組みかかってきましたが、それは景親や景久ではなく岡部弥次郎でした。義忠はこれを組み伏せて首を掻き切りますが、残念に思い、その首を谷に捨ててしまいました。

暗闇の中、義忠は目当ての俣野景久と遭遇し、両者は馬上で組み打ち、地面に落ちて泥まみれになりながら格闘しました。義忠が景久を組み伏せたものの、暗闇のためどちらが上かわからず、家安も景久の郎党も手出しができません。窮地に陥った景久は叫び声を上げ、長尾新五が駆けつけましたが、やはり上下が分りません。長尾新五が「上が敵か？下が敵か？」と問うと、義忠は咄嗟に「上が景久、下が与一」と答えました。これに驚いた景久は「上ぞ与一、下ぞ景久、間違えるな」と言いました。

とまどった長尾新五は手探りで鎧の毛を触り、上が義忠と見当をつけました。これまでと思った義忠は長尾新五を蹴り飛ばし、短刀を抜いて景久の首を掻こうとしましたが、不覚にも鞘ごと抜いてしまい刺さりませんでした。鞘を抜こうとするものの、先ほどの岡部の首を切った時の血糊で抜けず、そのうちに長尾新五の弟の新六が背後から組みかかり、義忠は首を掻き切られて討ち死にしました。享年25歳でした。また、主人を失った文三家安も奮戦しましたが、稲毛重成の手勢に討たれました。

源頼朝が治承・寿永の乱で勝利し、武家政権を確立させた建久元年（1190年）正月20日、頼朝は三島、箱根、伊豆山参詣の帰りに石橋山の与一と文三の墓に立ち寄り、その死を悼み涙を流したと伝えられています。また、横浜市栄区上郷町の證菩提寺は、頼朝が義忠を弔うために建立し、1197年（建久8年）に完成したと言われています。

義忠が戦死した地には、佐奈田霊社（神奈川県小田原市）が建てられています。義忠が組み合っていた時、痰がからんで声が出せず助けを呼べなかったという言い伝えがあり、この神社は喉の痛みや喘息に霊験があるとされています。

江戸時代に入ると、佐奈田与一は美男の人気者となり、多くの錦絵が描かれました。

もう一度検索