稲毛重成

稲毛重成：激動の時代を駆け抜けた武将

稲毛重成（いなげ しげなり）は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活躍した武将で、鎌倉幕府の御家人です。桓武平氏の流れを汲む秩父氏の一族であり、武蔵国稲毛荘を領しました。父は小山田氏の祖である小山田有重、源頼朝とは義兄弟、畠山重忠は従兄弟という関係にありました。

生涯

当初、重成は小山田重成と名乗っていました。父の有重は、兄の畠山重能と共に秩父一族の勢力争いである大蔵合戦で力を増し、保元の乱・平治の乱後には平家の郎党として京で活動しました。

治承4年（1180年）8月、伊豆で源頼朝が挙兵した際、重成は平家方として頼朝と敵対しました。しかし、同年10月には、隅田川の長井の渡しで、畠山重忠ら秩父一族と共に頼朝に帰順し、御家人として東国へ下向したとされています。その後、頼朝の正室・政子の妹（稲毛女房）を妻に迎え、頼朝との関係を深めました。

多摩丘陵に位置する武蔵稲毛荘は、保元の乱以前に開発され、重成は頼朝からこの地を安堵され、支配を強めました。『吾妻鏡』では、重成は榛谷御厨に進出した弟の重朝とともに「小山田」姓で呼ばれていますが、寿永3年（1184年）以降には「稲毛」姓で呼ばれるようになり、この頃に稲毛荘への支配を確立したと考えられています。また、同荘の枡形山には枡形城（現在の生田緑地）を築城したと伝えられています。

養和元年（1181年）には、前年に所領として加えた多磨郡の土地が、実際には平太弘貞の所有であることが発覚し、頼朝の怒りを買いました。しかし、翌養和2年（1182年）4月には、頼朝が江ノ島参詣の帰路に金洗沢で催した牛王物で恩賞を賜っており、この頃には赦免されたと見られています。

文治3年（1187年）には、弓術の行事に参加し、源頼朝から弓三張を賜りました。また、神鳥前川神社を創建したと伝えられています。

治承・寿永の乱では、秩父一族は畠山重忠、重成・重朝兄弟らが東国へ参陣しました。重成は重朝とともに、寿永3年（1184年）正月の木曾義仲追討戦で、源範頼軍に加わり宇治方面に進軍、一ノ谷の戦いでも活躍しました。

文治元年（1185年）10月、頼朝の弟である源義経が後白河法皇と結び、頼朝に反旗を翻しました。同年11月には、義経の舅である河越重頼が所領を没収され殺害されました。この事件により、秩父氏の家督は畠山重忠が継承し、重成の立場も向上したと見られています。文治5年（1189年）7月には、重朝と共に義経を匿った奥州藤原氏討伐（奥州合戦）にも参陣しました。建久元年（1190年）には、頼朝の上洛に供奉しました。

建久6年（1195年）6月、頼朝の再上洛に随行した際、美濃国で妻の危篤を知り、頼朝から駿馬を賜り急ぎ本領へ戻りました。しかし、同年7月に妻は亡くなり、その悲しみから出家し、法名を道全と名乗りました。以降、稲毛入道、小沢入道と呼ばれるようになりました。

建久9年（1198年）、重成は亡き妻のために相模川に橋を架けました。この橋の落成供養に出席した頼朝は、帰路で落馬し、間もなく死去しました。1923年（大正12年）に関東大震災の液状化現象によって茅ヶ崎市下町屋1丁目の地中から出現した「旧相模川橋脚」（国の史跡および天然記念物）は、重成が架けた橋ではないかと考えられています。

元久2年（1205年）6月22日、畠山重忠の乱が発生し、北条時政の謀略によって従兄弟の重忠が滅ぼされると、重成がその原因を作ったとされました。重成が舅である時政の意を受けて、無実の重忠を讒言したとされたのです。翌23日には、三浦義村によって弟の榛谷重朝、その子・太郎重季、次郎秀重が謀殺され、重成自身も大河戸行元によって殺害されました。また、重成の子である小沢重政は、宇佐美祐村によって討たれました。

同年11月3日には、一族の小沢信重が乳母夫を務める2歳の姫を連れて京から鎌倉を訪れました。姫は源師季（綾小路師季）と重成の娘の間の子で、北条時政の外曾孫にあたります。重成の災禍を恐れて隠れ住んでいたものの、政子がその姫を哀れみ、自身の猶子として迎え入れ、重成の遺領である武蔵国小沢郷を与えました。また、重成の一族の多くは讃岐国へと落ち延び、現在の香川県仲多度郡まんのう町には稲毛姓が多く残っています。

重成の墓所は、神奈川県川崎市多摩区にある館跡と伝えられる広福寺にあります。

参考文献

丸島和洋『中世武士選書19 郡内小山田氏 武田二十四将の系譜』戎光祥出版、2013年

関連項目

稲毛氏
旧相模川橋脚
川崎歴史ガイド
いなげや
小沢城
* 白幡八幡大神

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