佐治幸平

佐治 幸平

佐治 幸平（さじ こうへい）は、文久元年（1861年）に現在の福島県大沼郡会津美里町にあたる陸奥国大沼郡高田村で生まれ、大正6年（1917年）に55歳で生涯を閉じた、明治・大正期を代表する会津出身の政治家、実業家です。会津地方における自由民権運動の旗手としても知られ、若松（現会津若松市）の第3代市長や衆議院議員を務めました。

高田村の旧家、西佐治家の五代目佐治幸左衛門金麗の息子として誕生。佐治家は蒲生氏の家臣であった儀俄氏の子孫と伝えられ、醸造業を営む一方で大地主でもあり、高田地域で有数の存在でした。幼少期には会津藩士の栃木南厓に師事し、和漢の学問を深く学び、これが後の活躍の礎となります。明治21年（1888年）、母方の本家佐治家へ養子として入籍し、後に分家。この本家も代々酒造業を営む旧家でした。

若松中学（現会津高等学校）と福島師範学校で学んだ後、小学校教員となりますが、従兄弟で自由民権運動家だった佐治与松親守の影響を受け、政治の世界へと足を踏み入れます。明治15年（1882年）、教職を辞して運動に専念。特に、福島県令三島通庸が進める会津三方道路建設に対する反対運動の中心人物として活動しました。与松親守とともに工事の不正を訴える裁判を起こそうと計画しますが、これは官憲に露見し失敗に終わります。この過程で、幸平は「国事犯兇徒聚衆教唆者」として逮捕され、喜多方事件（弾正ヶ原事件）へと発展します。幸平自身は「大沼郡の巨魁教唆扇動者」として懲役6年の判決を受けますが、大審院で上告が認められ、明治22年（1889年）に無罪を勝ち取りました。

民権運動における受難を乗り越えた幸平は、その後政治家としての道を本格的に歩みます。高田村会議員、大沼全村連合会議員、福島県会議員を歴任。特に、政治の師とも仰いだ与松親守の死去後、その遺志を継ぐ形で県会議員に立候補し、地域社会への貢献に邁進することを決意しました。明治20年（1887年）には地域振興を目指す会津協会を設立。

また、実業家、地域開発者としても多大な功績を残しています。若松と高田を結ぶ直線道路を開設し、阿賀川（大川）には高田橋を架橋するなど、インフラ整備に尽力。明治23年（1890年）には会津中学校（現会津高等学校）設立運動の常任委員として学校開設に貢献しました。金融分野では、明治30年（1897年）の福島県農工銀行設立に携わり、監査役として同行の基礎を築きました。

鉄道事業にも深く関わり、明治30年（1897年）には岩越鉄道株式会社の設立に関わり取締役に就任。郡山から新津に至る路線の敷設免許を取得し、工事を進め、喜多方までの開通を実現しました。さらに明治41年（1908年）には野岩羽線建設の請願を衆議院に提出し、会津を経由する鉄道網の整備に力を注ぎました。

政治家としては、明治27年（1894年）の第4回衆議院議員総選挙で初当選を果たし、その後も当選を重ね、計6期衆議院議員を務めました（立憲政友会所属）。明治36年（1903年）には、平民出身者として初めて若松市長に就任。市長として会津高等女学校や会津工業の開校を推進したほか、柴四朗らと協力し、陸軍歩兵第65連隊の会津への誘致に成功するなど、多岐にわたる功績を残しました。日露戦争後の明治39年（1906年）には、これらの功績に対し勲四等旭日小綬章が授与されています。

立憲政友会の中心的人物として党の近代化と勢力拡大に尽力し、衆議院議長や文部大臣を務めた長谷場純孝とは特に親交が深かったと伝えられます。虚心坦懐な人柄で交友関係も広く、河野広中ら多くの同志や友人との交流を持ちました。頌徳碑によれば、小柄ながらも鋭い眼光を持ち、豪胆で卓越した見識を備え、歴史を愛し、義に厚い人物であったと評されています。細部にこだわらず寛容で洒脱、清貧に甘んじながらも、一貫して経世済民の政治的信念に殉じた、高潔な人格者でした。

大正6年（1917年）、病のため55歳で死去。高田の法幢寺に葬られました。その功績を称え、没後15年を経た昭和7年（1932年）には、御田神社の境内に頌徳碑が建てられました。

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