佐竹本三十六歌仙絵巻

佐竹本三十六歌仙絵巻について

佐竹本三十六歌仙絵巻（さたけぼんさんじゅうろっかせんえまき）は、鎌倉時代に制作された著名な絵巻物で、三十六歌仙と呼ばれる36名の歌人を描いています。この絵巻物は、久保田藩主である佐竹家に伝わっており、草分け的な存在として高い評価を得ています。その製作は13世紀にさかのぼり、書は後京極良経、絵は藤原信実が担当したとされています。

概要と内容

この絵巻は元々上下2巻に分かれており、それぞれに18名の歌人の肖像が描かれています。また、住吉大明神の図も含まれていました。しかし、1919年に各歌人ごとに切り離され、掛軸装に変更されてしまっています。大部分が現在も重要文化財に指定されています。

歌仙の起源は11世紀初めに藤原公任によって編纂された私撰集『三十六人撰』にあり、これは平安時代の歌人たちの秀歌をまとめたもので、後世に三十六歌仙という名前で知られることとなります。この絵巻では、歌仙の肖像には代表歌と略歴が添えられています。

絵巻物は、上下巻の歌人がそれぞれ描かれており、下巻の巻頭には住吉明神の図が描かれています。上巻巻頭には失われた景観図があったとされ、視覚的にも楽しませてくれる内容になっています。

製作技法と寸法

絵巻は紙本著色で、当初は巻子装でしたが、1919年に掛幅装に改装されました。その寸法は、縦約36センチメートル、横は60から80センチメートルと変動があります。絵部分には、金泥や銀泥を使用し、鮮やかな色彩で描かれています。特に注目すべきは、雲母摺り（きらずり）の技法によって生み出される光沢ある表現です。

絵のスタイルと作者

各画面には歌仙の姓名や官位が記され、略歴とともにその代表歌が紹介されます。肖像画は、歌人の姿のみが描かれ、背景や調度品は基本的に描かれないのが特徴です。中でも、特段の身分の高い斎宮女御徽子の肖像は、格が表現されています。

男性の歌人たちは、さまざまな衣装をまとって描かれており、その中には束帯姿や狩衣姿のものもあります。特に藤原興風や藤原朝忠は体勢を変えて描かれることにより、画面に動きと変化を与えています。一方、女性歌人たちは特に慎み深く描かれており、背を向けられる形で小野小町が描かれている例もあり、観る者の想像力をかき立てます。

受け継がれた歴史

佐竹本三十六歌仙絵巻は、佐竹家に受け継がれてきたため「佐竹本」と呼ばれるようになりました。この絵巻は、明治維新後の激動の時代を経て1919年に大規模な分割が行われ、各歌仙は異なる貴族や商人の手に渡ることになりました。この過程は多くの所有者の変遷を経て、今に至るまでの歴史を刻んでいます。

1945年の戦後の混乱を経ても、さまざまな博物館や美術館に所蔵され続けており、近年では特別展も開催され、一般の人々がその美しさを楽しむ機会が増えています。

この絵巻物は、三十六歌仙の中でも特に古い遺品の一つであり、鎌倉時代の大和絵系肖像画の代表作として、その芸術的価値は今でも高い評価を受けています。

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