掛軸

掛軸（かけじく）とは

掛軸とは、書や東洋画を裂（きれ）や紙で表装したもので、日本の伝統的な美術様式の一つです。主に床の間などに掛けて鑑賞され、「床掛け」とも呼ばれます。掛軸は、仏教を広めるための道具として日本に伝来した後、日本の文化と融合し、室内装飾において重要な役割を担うようになりました。

掛軸の歴史

伝来と発展

掛軸の原型は中国の北宋時代に遡り、当初は仏教の礼拝用具として用いられていました。桐箱に入れることで容易に持ち運びが可能となり、量産にも適していたため、仏画を中心に普及しました。

日本では、飛鳥時代にはすでに仏画として掛軸が伝わっていましたが、鎌倉時代後期に禅宗の影響による水墨画の流行とともに、掛軸も広く用いられるようになりました。この頃から、掛軸は単なる礼拝用具としてだけでなく、花鳥風月を描いた水墨画などの芸術作品を飾るための道具としても発展していきました。

茶道との関わり

室町時代以降、「茶の湯」の席で座敷の「床の間」に水墨画の掛軸が飾られるようになり、千利休が掛軸の重要性を説いたことで、茶人の間で掛軸が爆発的に流行しました。来客者や季節、時間帯などを考慮して掛軸を取り替える習慣が生まれ、掛軸によってその場の格式を表現するという考え方も重要視されるようになりました。

江戸時代から現代へ

江戸時代には、明朝式の表具が日本に伝わり、文人画とともに掛軸の表装技術も発展を遂げました。大和錦や絵錦唐織などの織物が用いられ、西陣などの産地で様々な織物が生産されました。18世紀には、京都画壇が栄え、日本画を愛好する人々に支持され、掛軸の芸術的価値も高まりました。明治・大正期には、日本画の隆盛とともに掛軸も発展し、昭和に入ると、文展や日本美術院などの台頭により、その隆盛はピークを迎えました。

現代においても、古くからの掛軸が文化財として保護・展示されたり、骨董品として売買されたりする一方で、肉筆や印刷による新たな作品も制作されています。掛軸は、日本の伝統と文化を担う重要な要素として、今もなおその価値を保ち続けています。

掛軸の種類

掛軸には、様々な種類があります。

仏画：仏教の尊像や経典を描いたもの
肉筆浮世絵：浮世絵師が肉筆で描いたもの
山水画：山や川などの自然風景を描いたもの
花鳥画：花や鳥などの自然物を描いたもの
墨蹟：禅僧や書家が書いた書
古筆：古人の書跡
色紙・短冊：色紙や短冊に書や絵を描いたもの
画賛：絵に賛を添えたもの
消息：手紙
断簡：巻物を切り取ったもの

これらの書画を表装し、掛軸として鑑賞します。また、連作となる複数の書画を同じ表装で仕立てたものを「対幅」と呼びます。対幅には、双幅、三幅対、四幅対、十二幅対などがあります。

表装の様式

掛軸の様式は、茶道とともに確立されました。座って見上げる際に美しく見えるように寸法が定められており、床の間の大きさや畳の大きさを考慮して作られます。

表装の材質としては、紙、金襴、銀欄、緞子、紗などが用いられます。各部位によって素材が使い分けられ、それらの組み合わせが画面を一層引き立てます。

代表的な表装様式としては、以下のようなものがあります。

大和表具：最も一般的な様式で、上（天）・中廻し・下（地）の三段に分かれています。
文人表具、袋表具：大和表具の上下（天地）と風帯を略した様式です。
茶掛表具、利休表具：中廻しの幅を狭めた様式で、茶席などで用いられます。
本尊表具、仏表具、神聖表具：神仏に関するものについてのみ用いる様式で、上下の裂で中廻しの左右の外側をも囲むようにします。

軸の材料には、象牙、紫檀、カリン、堆朱、水晶などが用いられます。

掛軸の各部名称と意味

掛軸は、全体で一つの世界観を表しています。本紙には、四季の風景や花々、訪れた人や家族への思い、自分への戒めなどが描かれています。

本紙の上には天と半月（月）、風帯（風）があり、木々に降り注いだ雨が風になびき露となる様子を表しています。その露が集まり川となり、土壌や木々を育みます。本紙の下には地があり、軸木、軸先で土壌や木々を表現しています。

掛軸の取り扱いと収納

掛軸を掛ける際には、矢筈（やはず）と呼ばれる道具を用います。掛ける手順、外す手順を守り、丁寧に取り扱うことが大切です。

掛軸は湿気や乾燥に弱いため、桐箱などに収めて温度変化の少ない場所に保管すると良いでしょう。桐箱には防虫香を添えて収納します。

掛軸は、日本の美意識が凝縮された芸術作品であり、人々の心を豊かにする文化遺産です。適切な手入れと保管を行い、次世代へと受け継いでいくことが重要です。

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