侯爵夫人マリア・セッラ・パラヴィチーノの肖像

ピーテル・パウル・ルーベンスが1606年に描いた油彩の肖像画です。バロック美術を代表する巨匠ルーベンスが、初期イタリア時代に手がけた肖像画の一つであり、ジェノヴァ共和国の貴族出身のマリア・セッラを描いています。現在はナショナル・トラストの管理下で、ドーセット州ウィンボーン・ミンスターのキングストン・レイシーに所蔵されています。

制作背景

ルーベンスは1605年から1606年にかけてジェノヴァを訪問し、その際、ジェノヴァの有力貴族であるセッラ家やパラヴィチーノ家の女性たちの肖像画を複数制作しました。本作品はその連作の一つです。同時期に描かれた他の肖像画には、バスコット・パーク所蔵の『ヴィオランテ・マリア・スピノーラ・セッラの肖像』、カールスルーエ州立美術館所蔵の『ヴェロニカ・スピノーラ・ドーリアの肖像』、キングストン・レイシー所蔵の『従者を伴う侯爵夫人マリア・グリマルディの肖像』、シュトゥットガルト州立美術館所蔵の『侯爵夫人ビアンカ・スピノーラ・インペリアーレと孫娘マリア・ジョヴァンナ・セッラ』、『侯爵夫人ブリジダ・スピノーラ＝ドーリアの肖像』などが挙げられます。

人物

マリア・セッラは、ジェノヴァの名門貴族セッラ家の出身です。彼女は同じくジェノヴァの貴族であるパラヴィチーノ家のニッコロ・パラヴィチーノと結婚しました。ニッコロは、マントヴァ公ヴィンチェンツォ1世・ゴンザーガに仕えていました。ニッコロの兄マルチェロ・パラヴィチーノ神父は、ルーベンスに『キリストの割礼』を依頼した人物です。また、マリア・セッラの兄弟であるジャコモ・セッラは、夫ニッコロの紹介でルーベンスと知り合い、サンタ・マリア・イン・ヴァリチェッラ教会の主祭壇画『聖母子の画像を崇める聖グレゴリウスと諸聖人』を制作する画家として、オラトリオ会にルーベンスを推薦しました。

作品

ルーベンスは、鑑賞者に向かって座るマリア・セッラを全身像で描いています。彼女は豪華な銀色のサテンのドレスと、白と銀のレースで飾られた幅広の襞襟を身につけています。ドレスは金色の刺繍レースで飾られ、オーバースリーブにも同様の金のレースと裏地の金色の布が用いられています。彼女の茶色の髪は、真紅の花、宝石、白鷺の羽根で飾られ、豪華さを際立たせています。マリア・セッラは赤い豪華な背もたれの高い椅子に座っており、その背もたれの角にはオウムが止まっています。背景には、アーチ状の古典的な石造りの建築要素が描かれており、暗い色の大理石とイオニア式の石柱が使われています。画面左上には大きな緋色のドレープが垂れ下がり、右端には青空と雲が見えます。

この作品は、バスコット・パークやカールスルーエ州立美術館にある肖像画と、服装、姿勢、容貌の特徴、構図が酷似しているため、描かれている人物が誰であるかについて、過去には混乱がありました。19世紀には侯爵夫人イザベラ・グリマルディの肖像とされていましたが、これは当時の所有者であったグリマルディ家によるものと考えられています。しかし、現在では、画面上部のカーテンに描かれた紋章学的モチーフの研究によって、描かれている女性がマリア・セッラであることが特定されています。

来歴

本作品は18世紀にグリマルディ家の所有となり、画家・伝記作家のカルロ・ジュゼッペ・ラッティによって、『従者を伴う侯爵夫人マリア・グリマルディの肖像』とともに、ジェノヴァのチェントゥリオーネ宮殿で記録されました。1840年、イギリスの政治家で美術収集家であったウィリアム・ジョン・バンクスによって、両作品はまとめて購入されました。その後、バンクス家に相続され、ヘンリー・ジョン・ラルフ・バンクスの死後、遺言によりコーフ城とキングストン・レイシーの財産と共にナショナル・トラストに譲渡されました。

ギャラリー

ルーベンスの同時期の肖像画

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脚注

参考文献

『ウィーン美術大学絵画館所蔵ルーベンスとその時代展』毎日新聞社（2000年）

外部リンク

* ピーテル・パウル・ルーベンス『侯爵夫人マリア・セッラ・パラヴィチーノの肖像』

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