聖母子の画像を崇める聖グレゴリウスと諸聖人

『聖母子の画像を崇める聖グレゴリウスと諸聖人』

この絵画は、ピーテル・パウル・ルーベンスが1606年から1607年にかけて制作した油彩画であり、『諸聖人に囲まれる聖グレゴリウス』や『聖グレゴリウスの法悦』としても知られています。正式名称は『サンタ・マリア・イン・ヴァリチェッラとして知られる奇跡の聖母子像を崇敬する、男女の諸聖人に囲まれた教皇聖グレゴリウス』で、バロック美術の巨匠ルーベンスの初期イタリア時代を代表する大作です。元々はローマのサンタ・マリア・イン・ヴァリチェッラ教会の主祭壇画として制作されましたが、現在はフランスのグルノーブル美術館に所蔵されています。

制作経緯

サンタ・マリア・イン・ヴァリチェッラ教会は、中世に建てられた教会を16世紀に改築したものです。その際、教会内には奇跡を起こしたとされる聖母子像が祀られました。ルーベンスに祭壇画の制作を依頼したのは、教会の後援者であったジャコモ・セッラ枢機卿でした。しかし、オラトリオ会はルーベンスが異国出身の画家であったため、彼の才能を疑問視し、厳しい条件を課しました。ルーベンスは、見本となる素描を提示し、制作費の一部を負担すること、主題を全面的に発注者の指示に従うこと、完成した作品が気に入らなければ返品される可能性があることなどを承諾しました。それでも、ルーベンスにとってこの依頼は非常に名誉あるものであり、彼は「ローマで最も名誉ある注文」だと述べています。

主題は、教会の守護聖人である聖グレゴリウス1世と、教会の主祭壇下に聖遺物が安置されている初期キリスト教の殉教者たちを描くことでした。さらに、これらの聖人たちの頭上に、奇跡を起こしたとされる聖母子像を描くことも求められました。ルーベンスは契約後、油彩スケッチとモデロを提出し、1607年に本作を完成させました。

作品の特徴

この絵画の中心は、奇跡の聖母子像を崇敬する聖グレゴリウス1世です。聖グレゴリウスは、聖霊の鳩に導かれ、プットーに囲まれた奇跡の聖母子像を見上げています。画面の中央に位置する聖グレゴリウスは、記念碑的な存在感を放っています。彼の周囲には、殉教聖人たちが取り囲んでおり、画面左側には聖パピアヌスと聖マウルス、右側には聖ドミティラ、聖ネレウス、聖アキレウスが描かれています。

聖人たちの配置は、絵画の主要な線と一致しており、聖グレゴリウスの大外衣の動きは半円形のアーチに呼応し、聖ドミティラの垂直性は付柱の垂直性に調和しています。ルーベンスは、ヴェネツィア派の画家であるティツィアーノやヴェロネーゼから影響を受けつつも、バロック様式の特徴である曲線と対比、照明の巧みな配分、人物同士の相互作用を取り入れることで、独自の芸術性を確立しています。衣装の生地の質感や鮮やかな色彩は、ルーベンスの卓越した絵画技術を物語っています。

来歴

完成した祭壇画は、オラトリオ会から必ずしも好評を得られませんでした。ルーベンス自身も、祭壇画が教会内の光の反射で見えにくかったと述べています。このためルーベンスは、スレート板を支持体とした新たな祭壇画『ヴァリチェッラの聖母』を制作し、さらに左右の壁面を飾る絵画として聖人を3人ずつ描いた作品を制作しました。これらの作品は、本作品の構図を分割したもので、ルーベンスはわずか5ヶ月でこれら3作品を完成させました。

ルーベンスは、当初この作品をマントヴァ公に売ろうとしましたが、実現しませんでした。その後、故郷のアントウェルペンに戻ったルーベンスは、この作品を聖ミカエル修道院に寄進しました。ナポレオン戦争中にフランスに押収されたこの作品は、ルーブル美術館を経て、1811年にグルノーブル美術館に移送されました。この作品は巨大なため、ほとんど美術館の外に出ることがなく、1935年のパリでの展覧会が唯一の例外です。近年では、2023年のルーベンス展において、高解像度デジタル複製が展示されました。

習作

本作には、いくつかの習作が知られています。フランス、モンペリエのファーブル美術館には黒チョークによる習作が所蔵されており、ロンドンのコートールド・ギャラリーとベルリンの絵画館には油彩による習作が所蔵されています。ベルリンの絵画館の油彩習作は、モデロであると考えられています。

関連作品と参考文献

この作品は、ルーベンスの初期の代表作であり、彼の芸術的才能を示す重要な作品です。関連作品として、同じくルーベンスが描いた『キリストの割礼』があります。参考文献としては、『西洋絵画作品名辞典』や『ウィーン美術大学絵画館所蔵 ルーベンスとその時代展』などが挙げられます。また、グルノーブル美術館の公式サイトには、この作品に関する詳細な情報が掲載されています。

この祭壇画は、ルーベンスがローマ時代に得た様々な経験、特にヴェネツィア派の画家からの影響が色濃く反映されています。また、ルーベンス独自のバロック的な表現が加わることで、傑作としての評価を不動のものとしています。

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