信州水澤観音利益雜食橋由來

『信州水澤観音利益雜食橋由來』は、江戸時代の戯作者である十返舎一九によって著された絵入り草子本です。1819年（文政2年）春に江戸の仙鶴堂から出版されました。この作品は、一九が実際に信濃国（現在の長野県）を訪れた際の体験が基になっています。

一九は1814年（文化11年）8月、松本城下の書店主・高美甚左衛門常庸の招きで、信濃国を訪れました。高美屋の弟子である花垣と共に、筑摩郡上波田村（現松本市波田）にある水沢観音若沢寺へ参詣し、数日間滞在しました。この滞在中、一九は寺の僧侶たちから、周辺の城で起きたお家騒動や、梓川にかかる雑炊橋にまつわる男女の悲恋物語、若沢寺の由緒、そして忍杉、雄鳥羽の滝、千手観音のご利益、坂上田村麻呂将軍の伝説、水沢不動尊の霊験など、様々な話を聞き書き留めました。

これらの見聞をもとに、一九は5年後、江戸で『信州水澤観音利益雜食橋由來』を創作しました。物語は、武家のお家騒動によって不運に見舞われた男女が、観音への深い信仰心と、神仏の不思議な力によって困難を乗り越え、最終的には城の支配を取り戻すという内容です。この作品には、一九が実際に見た風景や聞いた話が巧みに織り込まれており、当時の人々の信仰心や生活、風俗が生き生きと描かれています。

『信州水澤観音利益雜食橋由來』は、早稲田大学図書館に所蔵されており、その全体がウェブ上で公開されています。これにより、現代の私たちもこの貴重な作品を閲覧することができます。また、この作品をより深く理解するための研究も進められており、以下の書籍で復刻版や詳細な解説を読むことができます。

『幻の大寺院 若沢寺を読みとく』あずさ書店、2010年9月、ISBN 978-4-900354-67-8
『若澤寺を探るIV 若澤寺文献資料集2』波田町教育委員会、2005年3月

これらの書籍は、一九の作品だけでなく、若沢寺の歴史や文化についても深く掘り下げており、作品の背景を理解する上で非常に役立ちます。これらの資料を通じて、『信州水澤観音利益雜食橋由來』の世界をより深く堪能してみてはいかがでしょうか。

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