信濃電気

信濃電気株式会社

信濃電気株式会社は、日本の明治時代末期から昭和時代前期にかけて、長野県を主要な活動地域とした電力会社です。具体的には1903年（明治36年）に設立され、1937年（昭和12年）に長野電灯株式会社と合併して長野電気株式会社となるまでの約34年間存在しました。本社は長野県上高井郡須坂町（現在の須坂市）に置かれていました。

同社は、長野市を拠点とした長野電灯と並び、長野県北部の北信地方および東部の東信地方における電力供給を担う二大事業者の一つでした。その供給区域は、現在の長野市の一部、須坂市、中野市、千曲市、上田市といった広範囲に及びました。

事業の特徴

信濃電気の電力供給の基盤となったのは、信濃川（千曲川）水系および関川水系の河川を利用した水力発電でした。特に、新潟県境に近い関川には大型の発電所が集中的に建設され、総出力は3万キロワットを超える規模に達しました。発電所数は信濃川水系の方が多いものの、発電力では関川水系が優位でした。

また、同社の大きな特徴として、電力事業と並行して化学工業事業を兼営していた点が挙げられます。開業間もない明治期から、電力を大量に消費するカーバイド製造に乗り出し、上水内郡吉田村に工場を建設しました。この事業は次第に拡大し、大正末期には日本窒素肥料（後のチッソ）との共同出資により、信越窒素肥料株式会社（現在の信越化学工業株式会社）を設立するに至ります。信越窒素肥料は新潟県直江津に大規模な工場を建設し、信濃電気は自社のカーバイド製造を終了する代わりに、この新工場へ大量の電力を供給する主要な供給者となりました。

沿革

信濃電気は、県内初の電気事業者である長野電灯の開業から5年後の1903年5月に設立されました。同年12月に最初の発電所である米子発電所（信濃川水系、出力120kW）の完成とともに開業し、須坂町を中心に供給を開始します。

その後、供給区域を北の中野町方面や西の長野市近郊へと拡大するために、関川に高沢第一発電所（当初出力600kW）を建設し、1906年に運転を開始しました。長野市内への進出を試みた信濃電気でしたが、長野電灯との競合を経て、1910年には長野県知事の調停のもと、長野市内の供給権を長野電灯に譲る一方、長野電灯へ電力を供給するという協調関係を築きました。

長野市内進出を断念した同社は、新たな販路を東に求めます。1911年には、上田地域で事業を行っていた上田電灯株式会社を合併し、東信地方へと供給区域を広げました。

大正時代から昭和時代にかけて、同社は水力発電所の建設を積極的に進めます。高沢第一発電所の増強に始まり、関川水系では杉野沢、高沢第二、西野、清水沢発電所を、信濃川水系では樽川、鳥居川各発電所、横沢第二発電所などを相次いで建設しました。また、長野電灯との共同で梓川電力という会社を設立し、霞沢発電所という大型発電所を建設しましたが、その電力は東京電灯へ売却されました。

経営の変遷と合併

設立当初から長らく社長を務めたのは、須坂の製糸家である越寿三郎でした。越は1907年に一度社長職を退きますが、1913年には復帰しています。第一次世界大戦期以降、会社の業績は好調に推移し、高配当を維持しました。

しかし、1930年に昭和恐慌が始まると、長野県の基幹産業である製糸業が大きな打撃を受け、関連の深い信濃電気の経営にも影響が出始めます。本業の製糸業の不振や自身の高齢・病気を理由に、越寿三郎は信濃電気と信越窒素肥料の経営から退くことを決意し、長野電灯の経営者である小坂順造に両社の経営を託しました。これにより、信濃電気は長野電灯の傘下に入ります。

小坂順造の社長就任後、信濃電気は一時的に業績が悪化しますが、信越窒素肥料の経営改善などにより数年で回復しました。両社の経営状態がほぼ同等になったことを受け、1937年1月、信濃電気と長野電灯は新設合併によって新たな会社「長野電気株式会社」を設立することを決定し、同年3月末をもって両社は解散しました。

その後

新会社である長野電気株式会社は、わずか5年後の1942年（昭和17年）に戦時下の電力国家管理により、国策会社である日本発送電および地域別配電会社の中部配電に設備を承継させて消滅しました。旧信濃電気の供給区域は中部配電を経て中部電力株式会社に引き継がれましたが、発電所については、関川水系の発電所は日本発送電を経て東北電力株式会社へ、信濃川水系の発電所は中部配電を経て中部電力株式会社へと分割されて現在に至っています。

信濃電気は、長野県の産業振興、特に製糸業や化学工業と連携しながら電力供給網を拡大し、地域の近代化に貢献した重要な電力事業者でした。

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