修那羅峠

長野県小県郡青木村田沢と東筑摩郡筑北村坂井の境界に位置する修那羅峠は、標高914メートルの峠です。古代から小県地方と安坂・麻績地方を結ぶ重要な交通路として利用されてきました。その名称は、地理院地図などでは「しゅならとうげ」と記載されますが、地元では北信地方特有の音として「しょならとうげ」と親しみを込めて呼ばれています。かつてはこの地から小県郡方面へ続く緩やかな坂道にちなみ、「安坂峠（あざかとうげ）」とも呼ばれていました。

「修那羅」という名前の由来については諸説あります。有力な説としては、梵語で石を意味する「アシュナ」の短縮形である「シュナ」と、チベット語で峠を指す「ラ」が組み合わさった合成語で、「石峠」を意味するというものがあります。また、古くは「須那羅」とも記され、早稲田大学古美術部研究会は『日本書紀』に登場する素那羅の人々がこの地に定住したことに由来すると推測しています。さらに、石田肇氏は「須那羅」を朝鮮語で「金の国」（金官国）を意味する語に結びつけ、継体朝から推古朝にかけて朝鮮半島から移住した渡来人が故郷の名を伝承したのが始まりである、という説を提唱しています。

この峠の歴史において特筆すべきは、江戸時代末期から明治初頭にかけてこの地で活動した行者、修那羅大天武の存在です。彼は万延元年（1860年）に定住し、修験の場を築き、明治5年に没するまでの間に、峠近くの舟窪山に安宮神社を開いたと伝えられています。安宮神社の御祭神は、大国主命と修那羅大天武命です。安宮神社の境内、特にブナやクリの林の中には、善光寺平をはじめとする各地の信者たちから寄進されたおよそ860体もの石造仏・石造神が点在しています。これらの石神仏の多くは神仏習合の特徴を持ち、大天武がこの地にいた十数年の間に集中的に造立されたとされています。石像の高さは30センチメートルから50～60センチメートル程度のものが多く、山道の脇に無造作に並べられています。その種類は非常に多様で、悪霊神、蚕神、猫神、馬神、催促金神、狼神といった特殊な神々から、地蔵や大日如来といった仏像まで、当時の人々の信仰や願い、恐れが反映されています。古川純一氏は、これらの石像に峠周辺でかつて産出された良質な石材が用いられた可能性を指摘しています。また、他の石仏よりも一段高い尾根筋には修那羅の守本尊が祀られており、古くから安産や子育ての祈願が盛んな子安神としての女神様も祀られています。

この地が「修那羅峠」と呼ばれるようになったのは、修那羅大天武が広く庶民の信仰を集め、安宮神社への参道が定着したことによるものです。現代において、修那羅峠が広く知られるようになったのは、1964年（昭和39年）に作家の三石武古三郎が信越放送のPR誌で紹介したことがきっかけでした。その後、そのユニークな石仏群が注目され、新しい観光地としても人気を集めています。その文化的な価値は高く、1969年（昭和44年）には「修那羅山安宮神社石神仏・木神仏」が筑北村の文化財に指定され、1992年（平成4年）には長野県観光選定委員会により観光みどころ百選の「史跡」部門に「修那羅峠の石仏群」が選ばれています。

安宮神社の境内は信仰の場であるだけでなく、自然の美しさも魅力です。特に5月中旬頃には桜が見頃を迎え、春の訪れを告げます。また、6月上旬から中旬にかけてはミヤコワスレの可憐な花が咲き、訪れる人々の目を楽しませてくれます。

修那羅峠へのアクセスは、長野自動車道麻績インターチェンジから車で約12分、上信越自動車道上田菅平インターチェンジからは約50分です。公共交通機関では、JR篠ノ井線聖高原駅からタクシーで約12分となっています。

周辺には草湯温泉や田沢温泉、風情ある塩田平、「信州の鎌倉」といった観光地のほか、保福寺峠や猿ヶ馬場峠などの峠があります。青木村には、村指定有形文化財である神楽殿を持つ宮渕神社も位置しています。

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