倭文中村

倭文中村（しとりなかむら）は、明治時代から昭和時代にかけての短い期間、現在の岡山県津山市の一部にあたる地域に存在した村です。具体的には、現在の津山市の里公文（さとくもん）、里公文上（さとくもんかみ）、油木上（ゆきかみ）、油木北（ゆききた）、油木下（ゆきしも）の各地域が、かつて倭文中村の村域に含まれていました。この村は、日本の近代地方自治制度が確立される過程で生まれ、約半世紀にわたって地域の行政単位として機能しました。

倭文中村が誕生したのは、全国的な地方制度改革が進められていた1889年（明治22年）6月1日のことでした。この日、明治政府が定めた町村制が施行されたことに伴い、それまで久米北条郡に属していた五つの村が合併して、新たな村として発足することになったのです。合併の対象となったのは、里公文村、里公文上村、油木上村、油木北村、そして油木下村でした。これらの村々が一つの自治体として統合され、「倭文中村」という名称が与えられました。村の行政の中心となる役場は、合併元の村の一つであった油木北の地に設置され、ここから村全体の事務が執り行われることになりました。

倭文中村が誕生した当初は、岡山県内にあった久米北条郡に属していましたが、その後、所属する郡に変更が生じました。これは、1900年（明治33年）4月1日に岡山県内で郡の再編が行われたことによるものです。この時、久米北条郡は、隣接する久米南条郡と合併し、両郡を合わせた範囲を管轄する新しい「久米郡」が設置されました。これに伴い、倭文中村は久米北条郡から新しい久米郡へと所属を変更することになりました。村の名称や自治体としての形態は変わりませんでしたが、地図上の所属郡名は「久米郡」と表記されるようになりました。

倭文中村は独立した自治体として長く存続したわけではありませんでした。誕生から約51年後の1940年（昭和15年）9月1日、倭文中村は隣接していた同じ久米郡内の倭文東村（しとりひがしむら）と合併することになりました。この合併は、当時の行政区域整理の一環として行われたものと考えられます。倭文中村と倭文東村が一つになることで、新たな村「倭文村（しとりそん）」が誕生し、倭文中村は自治体としての歴史に幕を閉じました。

倭文中村が存在したのは、明治、大正、昭和の戦前という激動の時代です。この短い期間において、村は地域住民の生活に関わる様々な行政サービスを提供し、地域の発展に貢献しました。農業を主体とした地域であったと考えられ、住民は村の行政のもとで生活を営んでいました。倭文中村という名称は行政単位としては消滅しましたが、その村域であった地域は、現在、岡山県津山市の一部として引き継がれています。かつての村を構成していた里公文や油木といった地名も、今なお津山市の中に残されており、倭文中村が存在した証としてその名を留めています。このように、倭文中村は短いながらも、この地域の近代史において地域行政の一端を担った重要な存在でした。

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